作品タイトル不明
61「河童さんと春キャベツじゃね?」①
夏樹は、感動で震えていた。
異世界でも見ることができなかった河童が目の前にいるのだ。
三頭身の可愛らしい河童だった。
まるでマスコットキャラのようで、愛らしささえ感じる。
「かっぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ」
「あ、夏樹が壊れよった」
「なにか河童にトラウマでもあるっすかねぇ?」
「これは感動しているんじゃねえか?」
河童さんを指差し、小刻みに震える夏樹に小梅、銀子、千手がそれぞれの意見を言う。
夏樹に負けないほどガクガク震えている河童は、おそらく捕縛されたことでどんな目に遭うのかわからず怯えているのだろう。
「……待て、ちょっとお嬢さん方……この河童はどうして風呂敷を背負ってるんだ?」
「そういえばそうじゃな」
「気づかんかったっす」
「気づけよ」
千手のツッコミを受け、突然すぎる河童の登場で思考が止まっている夏樹を放置して、風呂敷を奪おうとして、
「――重っ!?」
あまりの重さに、風呂敷を地面に落としてしまう。
落ちた衝撃で、風呂敷の結び目が解けてゴロゴロとキャベツが転がってきた。
「……は? キャベツっすか?」
「立派な春キャベツじゃのう」
「なんでキャベツなんだよ」
銀子、小梅、千手が首を傾げる。
定番なキュウリではなく、キャベツが転がってきたことに困惑を隠せないようだった。
「……見逃してください」
「喋ったぁああああああああああああああああああああああああああ!」
鈴を転がすような可愛い声を発した河童に、夏樹が目を輝かせて叫んだ。
対して、小梅たちは「……こいつ、キャベツ盗んだな」と確信する。
第一声が「見逃してください」だったので、ほぼ自供に近いと思われた。
だが、そんなことに気づかない夏樹は河童の脇腹に手を添え持ち上げる。
「河童さん! いるんだ! ていうか、喋るんだ! 異世界にもいなかったのに、まさか近所の河川にいるなんて思わなかった! あと、なんか着ぐるみみたいで可愛い! ヌメヌメしているけどさ!」
「あ、あの」
「何かな!?」
「お腹をすかしている家族がいるんです。どうか、盗んだキャベツを見逃してもらえないでしょうか?」
しばらく夏樹は沈黙する。だが、笑顔を浮かべた。
「いいよ!」
「ありがとうございます!」
「でも、ひとつ教えてくれないかな?」
「は、はい」
「なんでキャベツ? 主食キュウリじゃないの?」
「……キュウリだけだと栄養が摂れないので」
「あ、うん。なんかすみません」
キュウリではなくキャベツを盗んだのには、ちゃんとした理由があったことに、拍子抜けした夏樹は謝罪し、そっと河童さんを下ろした。
「いやいや、いいよ、じゃないっすよ! 河童の野菜の窃盗は農家さんにとって深刻な問題になっているっすから! お皿叩き割っても許されるっすよ!」
「ぴぃ!?」
「河童さんのお皿を割るだと!? ――ならば、俺は銀子さんと戦わなければならない!」
「なぜそんな河童に入れ込んでいるっすか!?」
「異世界には河童さんはいなかった!」
「いなくてよかったっすね! きっと倒せませんでしたよ!」
今にも聖剣を抜きそうな夏樹に、銀子が叫ぶ。
直後、人とは思えない霊力が近づいてくるのがわかる。
「上だ!」
千手が注意を促したと同時に、新たな河童が降ってきた。
「我が名は河童キング! 同胞を捕まえようとするとは許せん!」
長身で、八頭身。
筋骨隆々の河童は頭部の皿を輝かせて、夏樹たちを睨んだ。
「……えぇ……なんかキモい。あと、なんで河童なのに空から来たの?」
河童に興奮していた夏樹だが、可愛くない河童の登場にちょっと冷静さを取り戻した。