軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60「千手さんの過去じゃね?」②

「まあ、ろくでなしが外で女を作ったり、男を作ったりするのはよくあることだ」

「うわぁ、よくあるんだ」

「あるんだよ。だけどな、子供まで作っちまうっていうのは、あまりない。ないわけじゃないが、例えば俺だったり、神奈家の礼央だったりだな。あとは、水無月家の長女もなんだが、あれは神との子だから違うというか、結婚前だからいいのか? よくわかんねえ」

「俺にもわからないけどね!」

男女の関係さえちゃんとできていない中学生には、なかなか理解できない世界だ。

「そういえば、異世界の貴族が立場の弱い女性を襲って、何人孕ませるか競い合っていたのには反吐がでたなぁ」

「……そんな夢も希望もない異世界の話、お兄さん聞きたくなかった」

「その貴族はちゃんと四肢を切り落とした後に、首も切ってあげたから安心していいよ」

「異世界の勇者怖いな!」

思い出すだけでも反吐が出る。

重税を課し、税金が払えないと子供だろうと、人妻だろうと、時には性別など関係なく慰み者になっていた。

異世界人など知ったことではない、というスタンスの夏樹でさえ不愉快だったので殺したほどだ。

しかし、住民たちからは感謝ではなく罵声を浴びせられた。

これでもマシな貴族だった、もっとひどい貴族が領主になったらどうするんだ、と。

じゃあ、嫌がったり、抵抗するなよ、と思ったけど言うだけ無駄だと思ったのでやめた。

「俺はいいから千手さんの話をしてって」

「はいはい。んで、俺も外で作られた愛人の子なんだけど、なにを思ったのか親父はちゃんと認知して、引き取ったんだよ。まあ、母親も俺を育てる気はなかったようだから、見るに見かねてなのか、気まぐれなのかはよくわからん」

「……でも、あまり良い暮らしじゃなかったんでしょう?」

「まあな。神奈家の当主殿はご立派だ。愛人の子を我が子として育てたんだ。まあ、恩を仇で返されちまったけどな。俺の場合は、まあ、義理の母親と兄貴と姉貴にいじめられたいじめられた。父親も最初は庇ってくれていたから、表立ってはやられていなかったんだが……俺は才能が凄くてな!」

「急に自慢始まったぞぉ!」

重い内容なので、夏樹的にはところどころふざけていかないと心が保ちそうもなかった。

「七森家は魔眼の一族なんだ。昔は邪眼やなんやと言われていたんだが、まあ、目にまつわる力があるんだよ。で、だ。愛人の子の俺が、七森家の初代当主と同じ停止系の魔眼だったんだよ。よりによって、初代以外に発現した人間がいなかったから、こりゃ大変ってことになって、ただの愛人の子供からちゃんと七森家のお子様にジョブチェンジだ」

「ジョブチェンジて」

「そこから始まる、いじめといじめといじめ。ただ、残念だったのは、俺がやられているばかりの子じゃなかったってことだ。兄貴のパソコンでアダルトサイト徘徊しまくりウイルスだらけにして、姉貴はSNSの裏垢を暴露して学校での居場所をなくしてやったぜ!」

「えぐぅ」

とんでもないお子さんだったことに、ちょっと夏樹は引いた。

だが、それだけの仕返しをするようなことをされたのだろう。

「まあ、それくらいなら可愛いよくある名家の一幕なんだが、よりによってクソ兄貴もクソ姉貴も俺が当主になるんじゃないかって疑心暗鬼になりやがって。俺はその頃、野球チームで投手だったんだが、勘違いしたのかな?」

「あり得るね!」

「クソ兄貴もクソ姉貴も自分が優秀だから当主になろうとしていてな。それで俺に嫌がらせをするわするわ。よくしてくれた使用人までいじめてくれちゃったんで、俺はもう激おこでな」

「やらかしたの?」

「やらかしたよ!」

にやり、と千手が笑う。

「まず、クソ親父とクソ兄貴には、便所でズボンを下ろした瞬間に『停止』してやった!」

「しゅげぇええええええええええええええ!」

「もう全力でね、後先考えずに本気で『停止』をしてやったんだよ! するとどうなったと思う?」

「ま、まさか、そのままとか?」

「正解! なんとクソ兄貴とクソ親父は、今も便所でズボンを下ろした状態で固まってまーす!」

「うわっ、やばっ! え? まじ? ちょ、見に行こうよ! なんなら観光地にしようよ!」

夏樹も異世界人にいろいろなことをしてきたが、千手のような愉快なことをしたことはなかった。

ちょっと悔しく思う。

「家は広いから便所は何箇所かあるんだが、その内ふたつは今も使用中だ!」

「ぎゃはははははははははははははは!」

「クソ姉貴にも同じことしようと思ったんだけど、めちゃくちゃ警戒されてな。だから、婚約者がいるのに浮気している瞬間を狙って、『停止』してやったんだよ! さすがに浮気相手までだと可哀想だから一週間で勘弁してやったけどな」

「千手さんやーさーしーいー!」

「まあな! で、クソ姉貴の婚約は破談。慰謝料までも持ってかれたよ。んで、俺も十代半ばになったし、さよならーって」

「すげぇ。そのざまぁはすげぇ!」

「ま、七森家としてはそれじゃ決まりが悪いものだから、俺が力を暴走させて被害が出たってことになってるんだが、今でも定期的に家の使者が接触してきてクソ親父とクソ兄貴をなんとかしてくれって、懇願だよ。だから俺は言ってやったのさ。散々俺を罵倒した義母様が直接頼みに来いって。ま、来るわけがねえわな。『停止』されるのは怖いだろうからなぁ」

カラカラ笑う千手は、過去を気にするというよりも武勇伝のように語った。

夏樹はそれが少し羨ましい。

夏樹には、異世界で散々いろいろな目に遭ったことをそのようには語れない。

いつか時間が解決してくれるのかな、と思う。

「おおおおおい! 夏樹夏樹夏樹!」

「夏樹くん! 見てほしいっす! 見てほしいっす!」

夏樹を呼ぶ、小梅と銀子の声を聞き、夏樹と千手が身体を起こすと、いつの間にか河川敷にいたふたりが、河童さんを捕獲していた。

「河童さんだぁああああああああああああああああああああああああ!」

「この川に河童がいたのか。つーか、なんで捕まえてるんだよ!」

感動してダッシュする夏樹と、ツッコミを入れる千手。

――だが、まさか、この河童さんとの出会いが新たな騒動のきっかけになるとは思いもしなかった。