作品タイトル不明
58「恋の予感じゃね?」
「おどれはもう黙っとれ!」
小梅が懐から出したあんぱんを銀子の口の中に放り込む。
「あむあむあむあむ」
銀子は静かにあんぱんを食べ始めた。
「なんだか、うちの銀子さんがすみません。お話を続けてください」
夏樹が謝罪し、妙子の話を続けてもらうようにお願いする。
妙子は咳払いをすると、少しだけ躊躇ったあとゆっくりと口を開いた。
「……あの場では言いませんでしたが、風間家から朱美さんを絶縁するとあった手紙には続きがありました」
「続き、ですか?」
征四郎はもちろん、夏樹たちも不思議がる。
まだなにかあるのだろうか、と。
「朱美さんは風間家の前妻の子です。下に妹がふたりいるのですが……」
「まさか、母上。それはあまりにも」
「下の妹を征四郎の婚約者にどうか、とありました」
「待ってください、母上! 朱美の妹といえば、十六歳と、十二歳ではありませんか!」
「……わかっています。さすがにこれはありえないと思ったのですが」
「ですが、なんだと言うのですか! そのように政略結婚の駒にまだ幼い子たちを! 人をなんだと思っているのです!」
征四郎の叫びを聞き、夏樹は指を鳴らして風間家に行く準備を始める。
幸いなことに、出番がなかった剣にも活躍がありそうだ。
「私は朱美と幼馴染みゆえに、ふたりのことも知っています。そんな子たちが政略結婚など、耐えられません!」
小梅と銀子も首を鳴らして、立ち上がる。
千手と祐介も闘志を剥き出しにして立ち上がった。
「お待ちなさい、征四郎。そして、どうか由良殿も落ち着いてくださいませ。風間家からの申し出には私も憤りましたが、手紙の続きを見て、一考してもよいかと思ったのです」
「母上!」
「ちゃんと最後まで話を聞きなさい。次女のまつりさん、三女の柚子さんは幼い頃からあなたのことを慕っていたそうです」
「へ?」
夏樹たちの動きが止まる。
「姉の婚約者だからと気持ちを抑えていたようですが、姉が結婚をしないのであれば、ぜひ自分が、と以前より訴えていたようです」
夏樹は座布団に腰を下ろしてスマホを触り始め、千手は縁側で電子煙草を吸い、祐介は小説を読み出した。
小梅は「……年下ハーレムかやるのう」と感心し、銀子は「……さすが銀子ちゃん。良縁まで持って来てしてしまうとは……自分の才能が怖いっ!」と先見の明があったとドヤ顔している。
「待ってください、それが事実だと限りません! 風間家にはよくしていただいていましたが、さすがに結婚となると話は別です!」
「そうですね。そちらはきちんと確認をしておきましょう。風間家としても、素盞嗚尊様、月読命様からご縁をいただいたあなたと繋がりがなんとしてもほしいはずです」
「……そんな」
「まあ、私としても、朱美さんのような浮気者とは違い、妹さんはしっかりした方ですので、全然構いませんよ! あ、でもふたりともとかは許しませんからね!」
割と乗り気な母に困り果てた顔をして助けを求める征四郎だったが、誰ひとりとして助け舟を出してはくれなかった。
(ひゅー! 主人さん、もーてもーてー! いえっ!)
どこからともなくそんな声が聞こえたが、征四郎はそれどころではなかった。