軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58「終わりの時間じゃね?」①

変な声を出して、股間を押さえて地面に倒れた礼央が悶絶しながら、びくんっ、びくんっ、と痙攣している。

「本当に弱っ! 雑魚すぎ! ざーこざーこ! クソざーこ!」

異世界から帰還して、一番弱かったと思われる。

つい素直な夏樹は、礼央を雑魚扱いしてしまう。

「――夏樹くん……なんだか急にわからせたくなってきたっすねぇ」

「そうじゃのう。こう、心に響くもんがあるのう」

「わかるわぁ。わからせてぇなぁ」

銀子、小梅、千手がうんうんと頷いている中、征四郎が母に言葉をかけた。

「母上。そろそろお話をまとめてくださいますか?」

「え? 私が?」

「えっと、一応俺は母上待ちだったのですが」

「そうだったのですね。それは申し訳ないことをしました。てっきり、そちらでどうにかしてくださるのかと思っていました」

「いえ、あの、神奈家の問題に口を出せるような立場ではないですし、彼らもそのようなことをする義理もないので、どうか母上にこの場を収めていただければと思います」

「……わかりました。由良殿、そこで転がっている子を連れてきてもらえますか?」

「はい、喜んでー!」

未だ股間を押さえて痙攣している礼央のズボンを掴んで持ち上げると、部屋に向かって放り投げた。

室内を転がっていく礼央に、朱美は駆け寄るどころか、心配する素振りさえ見せない。

夏樹も室内に上がり、座布団の上に腰を下ろす。

「ありがとうございます」

「いえいえ」

夏樹はこれから最後のざまぁが始まる予感をして、鉢巻をしっかり巻いた。

「まず、現在の神奈家当主は私です。今までは夫を立てて家督を譲っていましたが、もう愛想が尽きたので追い出しています。そして、礼央。あなたはそんな夫が外で愛人に産ませた子供ですが、私は差別することなく我が子として愛情を注いできました。もしかしたら、至らぬ点があったのかもしれませんが、それは兄の婚約者を奪っていい理由にはなりません」

礼央は股間を押さえたまま「こひゅー」と変な息を漏らしている。

果たして妙子の声が聞こえているのか疑問だ。

「征四郎。あなたも魔剣を奪われた後、いくら父親に絶縁すると言われたとしても私になにも言わず出て行ったことを反省しなさい。せめて私と会ってくれさえいれば、止めていましたし、絶縁なんてさせませんでした。……いえ、後で知りながら、なにもしてあげられなかった私も悪いのです。申し訳ない」

「いいえ、母上が謝ることではありません!」

「そう言ってくれると嬉しいのですが、まだ叱ることはあります。素盞嗚尊様の神剣を強奪し、あろうことか多くの方に迷惑かけたことは、いくら素盞嗚尊様がお許しになられたとしても許されることではありません。後日、院の方がたにも謝罪に参りましょう」

「……はい」

項垂れる征四郎に頷いた妙子は、ひとり青い顔をして存在感を消そうとしていた朱美を見た。

「朱美さん。私はそもそも結婚を認めていませんので、今さらですが、あなたにはこの家から出て行ってもらいます」

「――そ、そんな! お母様!」

「今まで私を無視して楽しくやっていたのですから、他のどこかで続けていなさい。征四郎を弄んだこと、風間家と神奈家の関係を悪くした責任をとってもらいます」

「し、しかし!」

「黙りなさい。礼央、あなたを次期当主から正式に外します。とはいえ、私にとってあなたは息子です。選択肢をあげましょう。家を出て一般人として普通の生活を送るか、それとも怠けていたことを反省し、親類のところで修行をし直すか選びなさい」

しかし、礼央から返事はなかった。

股間が痛くてそれどころではないようだ。

「……この期に及んでだんまりとは……正直、失望しました」

(うわぁ、これ、俺のせい? でもさ、こんな空気の中で、そちらのお子さんは股間が痛くて返事できないですよとは言えないよ!)

征四郎、千手、祐介もなんとも言えない顔をしているが、礼央をフォローするつもりはないようだ。

「待ってください! お母様! 息子が、息子がいるのです! 情がないのですか!」

「それがどうかしましたか?」

「え?」

「冷たい言い方をしますが、私はまともに孫と口を聞いたことはありません。情はありません。ですが、孫がなにもしていないことくらいは理解しています。ですから、分家に預けましょう」

「母親と引き離すのですか!?」

「わかりました。それだけの決意があるのなら、孫と一緒に出て行きなさい」

「そ、それは」

「礼央を連れて行っても構いません。家族仲良く暮らすのもひとつの選択でしょう」

「お待ちください! それでは、神奈家はどうするのですか!」

「他家のお嬢さんに心配してもらう理由はありませんが、気になるのならば教えましょう。征四郎が継がないのであれば、分家の人間に継がせるのが妥当でしょう」

「……分家など、本家の方々に比べたら血が」

「血の話をするのであれば、あなたの息子には神奈の血は流れていませんよ」

朱美はなんとしても神奈家に残りたいようだ。

実家から勘当されてしまった以上、行く宛がないのでわからないわけではない。

「あなたには選択肢を用意しただけありがたいと思って欲しいのですが」

「……夫と子供を捨てて、征四郎様の妻になる選択肢もあってはいいのではないでしょうか?」

朱美のあまりにもの発言に、妙子と征四郎はもちろん、夏樹たちでさえ絶句した。

あまりにも自分勝手な要求に、呆れて言葉もないとはこのことだ。

――ぱんっ。

立ち上がった妙子が、朱美の頬を打った。

「もうあなたと話すことはありません。誰か! この女を家から追い出しなさい!」

「お母様! 待ってください、お母様! 征四郎様、わたくしは婚約者だったでしょう! ねえ、ねえったら!」

最後まで反省も謝罪もせず、朱美は使用人によって引きずられて行った。

唖然とする夏樹たちと、股間を押さえる礼央が残される。

「礼央……まさかあなたも子供のことを放棄するつもりじゃないでしょう?」

「…………」

しかし、まだ股間を押さえて悶絶している礼央は返事ができなかった。