軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

56「手加減頑張ったんじゃね?」①

「よっわ」

夏樹は、拳と田んぼに逆さに突き刺さったままもがいている礼央を見比べて、つい本音が溢れた。

事前に銀子から礼央が弱いと聞いていたのだが、まさかここまでとは思わなかった。

軽く魔力を込めただけの拳で、こうも愉快な光景を作るとは思いもしなかった。

「ダセェぇえええええええええええええええええええ!」

「ぎゃははははははははははははははははははははは!」

爆笑して動けずにいる銀子と小梅の声が響く。腹が痛くなるほど笑っているようで、ある意味、ダメージを与えられているようだ。

「……嘘だろ、神奈家の跡取りが今まであれでよかったのか、と逆に聞きたくなるんだが」

千手も礼央の実力がないことに唖然としていた。

祐介も間の抜けた顔をしている。

「子供のころは、俺と大差なかったんだが」

「いいえ、礼央は昔からあんな感じでしたよ」

「母上?」

征四郎も困惑していると、妙子がさして驚いていない顔で説明を始めた。

「礼央は征四郎と違い、努力が嫌いな子でした。それなりに幼い頃はできたようですが、鍛錬は怠れば怠っただけ弱くなります。しかし、礼央は鍛錬をサボっていたことで、朱美さんと交流を深める時間があったようですね」

「……そういえば、俺は鍛錬ばかりしていたな」

とはいえ、弱いのは問題だ。

命を落とす場合もあれば、守るべき人々を守れないこともある。

死んでしまえば後で言い訳などできないのだ。

「この卑怯もんがぁああああああああああああああああああああああ!」

田んぼから這い出てきた礼央が絶叫する。

泥だらけだが、怒りの表情を浮かべていることはなんとなくわかる。

彼は霊剣を抜き、構えた。

「構える前に殴りかかってくるじゃねえよ! はじまりの合図さえないじゃねえか! いくら俺が強いからって、不意打ちかましやがって! 俺を本気にさせちまったな!」

「……この人、見ていて痛々しい! やだ、辛い! こんな人と戦わなきゃならないのが辛い! ざまぁにすらならないじゃん! どうするの、これ!?」

夏樹からすれば、敵意を向けられたら戦闘開始だ。

手加減していたから生きて文句を言えてるが、異世界なら初手で殺していた。

死人は文句も言い訳もしないので楽でいい。

「ざっけんな! 俺と戦うことを後悔させてやるよ! 死ねぇええええええええええええええええ!」

「構えはなってないし、遅いし、あと、せめて霊力込めろよぉ!」

礼央の実力が今のままで本当に本気なのであれば、正直、神奈家が心配になるレベルだ。

魔剣がないからとか言い訳ができないほど弱い。

「征四郎さんの弟だから手加減してあげたのに、いいよ。それなりの力で相手してあげるよ」

アイテムボックスから、戦場で拾ったただの剣を抜く。

刃こぼれしているが、礼央相手にはちょうどいいだろう。

「くぉら! 夏樹! 絶対手加減するんじゃぞ! か弱い雑魚を労わるようにそっと攻撃するんじゃぞ!」

「え? なんで?」

斬る気満々だった夏樹に、小梅が叫ぶのでついよそ見をしてしまう。

もちろん、隙など見せていないのだが、礼央には好機と見えたようで「隙ありぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」と叫んでいる。

「夏樹がそのボケを殺したら、浮気女がここぞとばかりに征四郎にアタックするきっかけになるじゃろう! 弟が死んだのだから、兄貴にってくるじゃろう! 賭けてもええぞ! この女は絶対に言う!」

「なるほど!」

視界の端で「――ちっ」と舌打ちしている朱美を見て、納得した夏樹が剣をアイテムボックスに戻し、地面を蹴った。

剣を振り下ろす前に懐に入られてしまった礼央が慌てるが、一度動いた身体は止まらないようで、腰がひけた状態で剣を振り下ろす。

遅い剣筋をのんびり視認した夏樹は、一度やってみたかった真剣白刃取りをすると、そのまま刀身を折った。

「ぷ?」

「ウルトラスーパーデンジャラスアルティメットマモンマモンディスティニー勇者キーーック!」

「ぴょえ!?」

そして、霊剣を失い変な声を出して硬直した礼央の股間をちょっぴり力を込めた足で蹴り上げた。