作品タイトル不明
55「ざまぁじゃね?」②
今出せる全ての勇者の力を使って、雷のごとき速さで「ざまぁ」と背中に描かれた半被を夏樹は羽織った。
うちわを振り回し、嬉しそうに乱舞する。
「……なん、で……なんで、いきなり、絶縁なの?」
「信じられませんが、素盞嗚尊様より風間家にご連絡があったそうです」
「……本当に、こんな奴らが神々と? 嘘、でしょう」
事前に聞いていたとはいえ、神々がただの人間と交友があることが信じられなようだ。
朱美たちもまさか、この場に天使がこっそり紛れ込んでいるとは思うまい。
神々や魔は、意外と近くにいるのだ。
「た、助けて、征四郎さん!」
「いい加減にしろ! 風間家に関して、俺はどうこう言える立場ではないが、俺に頼ってどうするんだ!? 俺に何をしろと言うんだ!」
「そ、そもそも、おかしいのよ! わたくしは、神奈家の次期当主に嫁いだのよ! 血も繋がってない、愛人の子に嫁いだわけじゃないのよ!」
「……朱美」
「こんなのってないじゃない! 結婚する時に、こんな大きな秘密があるなら伝えるでしょう! 詐欺よ、詐欺!」
髪を振り乱して叫ぶ朱美を見て、征四郎は絶句している。
ここまでの醜態を見れば、百年の恋も冷めるだろう。
「征四郎さん、こんなブスと結婚しないでよかったね。半被着る?」
「い、いや、気持ちだけで結構だ」
「そっか。千手さんと祐介くんは?」
「きねーよ!」
「うちわだけじゃなくて半被までなんで準備してるの!?」
「役に立つかと思って」
うちわは持ってくれても、半被を着てくれない仲間たちに夏樹はしょんぼりした。
「お、お母様! わたくし、どうすればいいんですか!?」
征四郎に縋れないと分かった朱美は、妙子の元へ駆け寄った。
だが、妙子は感情を動かさずに、淡々と答える。
「私はもともと、あなたを嫁とは認めていません」
「お母様!」
「あなたも私など関係ないと、好き勝手やってきたではありませんか。今さら私に媚を売ってもなにもありませんよ」
「……ふざけるな! 血のつながりのある長男を捨てて、愛人の子供と結婚したのが気に入らないならそう言えばいいじゃない!」
「それ以前の問題です。あなたは征四郎が次期当主であったときも礼央と関係がありましたね。知らないと思っているのなら、ふざけているのはあなたの方です」
「そ、それは、こいつに無理やり迫られたんです! わたくしは征四郎さんをお慕いしていたのに!」
ついには泣き始めた朱美に、夏樹は一瞬で白けてしまい、半被を脱いでうちわを回収してアイテムボックスに戻す。
ついには、彼女たちに背を向けてSNSを始めてしまった。
「おどれは自由すぎじゃろう。まあ、気持ちもわかるがのう」
「なんというか、征四郎の弟もざまぁ案件なんでしょうけど、さすがにここまで嫁がクズだと可哀想になってきますねぇ」
小梅と銀子は心底軽蔑した目を朱美に向けた。
「名家あるあるだよなぁ」
「あるあるなんだ……この人見ていると、異世界のトラウマが……うっ、蘇るぅ」
名家ゆえにドロドロも多いのだと納得している千手と、朱美のせいで異世界のトラウマが蘇って胸を押さえる祐介。
全員が、想像していたよりも酷い展開だったため、お家に帰りたくなっていた。
「礼央。朱美さんはそう言っていますが、あなたの意見は?」
「誘ってきたのは朱美だ。その証拠に、兄貴には指一本触らせてねえだろ」
「私は、何度も嗜めましたよね」
「はっ! 優秀優秀とちやほやされていた兄貴に一泡吹かせたかっただけだよ! こんな性格の悪い女、誰が本気で手を出すかよ!」
「……礼央。ならば、なぜ結婚したのですか!」
「親父が結婚しろって言うからだよ! 風間家の経済力、神奈家の名家としての力があれば、俺の院での権力も増すって言われたんだよ!」
「愚かな」
とても成人した人間の言葉とは思えない短慮な台詞に、妙子は言葉を失くしていた。
征四郎も、まさか弟にこうも恨まれているとは思ってもいなかったのでショックを受けている。
征四郎の中で、礼央と朱美は愛し合っていたからこそ、自分を捨てて結婚したのだと思っていた。だが、蓋を開けてみれば、礼央は兄を傷つけるために、朱美に至っては話を聞いてもなにひとつ理解ができない。
こんな人間たちのことで、数年も気に病んでいたのが馬鹿らしく思えてきた。
「なにが愚かだよ! あんただって、血の繋がった息子が可愛いだけだろ! ――おい、クソガキ! お前が本当に素盞嗚尊様と戦えると言うのなら、俺にその力を見せてみやがれ!」
「――え? 自殺志願者さん?」
「舐めんな! 俺はこれでも神奈家の次期当主だ! 魔剣がなくとも、霊剣があれば――」
「勇者ぱーんち!」
この流れでまさか自分に戦いを挑んでくるとは思わなかった夏樹であったが、挑まれたのなら応えようと、軽いジャブのつもりで雷を込めた拳を繰り出した。
次の瞬間、礼央は障子を突き破り、家を囲う塀を砕いて、頭から田んぼに落ちたのだった。