作品タイトル不明
53「ざまぁが始まるんじゃね?」③
神奈家にあがった夏樹たちは、広間に通された。
座敷の上で正座し、並ぶ、夏樹たちの前で神奈妙子が深々と頭を下げる。
彼女の横の少し離れたところに、金髪の青年と、征四郎の元婚約者の朱美が座っている。どちらも面白くなさそうな顔をしている。
「まずは、この度は、一族の問題に皆様を関わらせてしまったことをお詫びします」
「……母上、顔を上げてください。それは俺が悪く。謝罪するなら、俺が」
母に頭を下げさせてしまったことで、征四郎が慌てるが、妙子は顔を上げようとはしなかった。
これには、夏樹たちも困る。
すでに征四郎との問題は終わったことだ。
今回は、ピクニック気分でざまぁしにきたのに、重々しい空気で困惑しているだけだ。
「あー、当主殿。とりあえず、顔を上げてください。すでに終わったことなんで、こちらも謝罪されては困ります」
千手が代表して妙子に声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げてくれた。
「……七森千手殿」
「まあ、俺はあんまり関係ないって言うか、征四郎を止めたのも、その後の問題を片付けたのも、こちらの由良夏樹君なので」
「由良夏樹です。こんにちは」
挨拶をする夏樹に、妙子が驚いた顔をした。
「……あなたが由良夏樹殿ですか。水無月家のお話は聞いています」
「えっと、はい、いろいろありました」
「力をお持ちとはいえ、まだ子供の由良殿を巻き込んでしまったことに深くお詫び申し上げます」
「いいえ、気にしないでください」
「ありがとうございます。しかし、私も詳細はわかっていないのです。先ほど、院の上層部から連絡があったので、まさかこうも早く征四郎が帰ってくるとは思いもせず。神剣を盗んだことは、前もって聞いていたのですが……」
すべてを知るわけではない妙子に、征四郎は詳細を語った。
魔剣を奪われ、すべてを失った征四郎は銀子を倒すために修行したが、限界が見えてしまった。そんな折、神剣を手にすれば勝てるのではないかという安易な誘惑に負け、神剣を強奪してしまう。
佐渡祐介とここにはいない小林蓮によって凶行を阻まれ、由良夏樹によって神剣を折られたことで正気を取り戻した。
しかし、そこに素戔嗚尊が現れ、ケジメとして命を奪おうとする。
だが、由良夏樹が戦い、勝利することで、征四郎の命は救われた。
「――そして、月読命さまより神剣を、素盞嗚尊様より十束剣を授けられたのです」
語り終えた征四郎に、妙子は絶句していた。
無理もない。
神代の神が、それも素盞嗚尊と月読命が現れるなど誰が想像できようか。しかも、夏樹に至っては素盞嗚尊と大喧嘩をして勝利しているのだ。
「はっ、嘘もほどほどにしておけよ! こんなガキが素盞嗚尊様に勝てるわけがねえだろ! 兄貴も、嘘ならもっとマシな嘘をつけよ!」
今までずっと、征四郎を睨みながらも口を閉じていた金髪の青年――神奈礼央が、夏樹と征四郎を嘲笑う。
「月読命様が後見だ? 十束剣を譲り受けた? ただの人間が神々に簡単に関われるわけがねえだろ!」
「……礼央」
「気安く名前を呼ぶんじゃねえ! 俺は、神奈家の次期当主だぞ! 兄貴……いや、征四郎。お前は俺から当主の座を奪いたんだろうけど、そうはさせねえ! 当主の座も、朱美も、絶対に渡さないからな!」
目を血走らせて唾を飛ばす礼央に、妙子が顔から感情を消し、叱責しようとした。だが、それよりも早く、不思議そうな征四郎が弟に尋ねた。
「礼央。お前は何を言っているんだ?」
「は?」
「俺は、迷惑をかけたことを母上に謝罪にきただけだ。当主の座などいらない。そして、もちろん、朱美もいらない。――いや、このようなことをそもそも言うべきではない。当主の座はふさわしい者がなればいい。朱美も物ではないのだから、渡す渡さないの話ではない」
「……な、な」
わなわなと震える礼央と、はっきり「いらない」と言われてショックを受ける朱美。
夏樹は、今後の展開を予想して、アイテムボックスから「ざまぁ」と書かれたうちわを出すと、再びみんなに配り始めた。