作品タイトル不明
52「ざまぁが始まるんじゃね?」②
「な、なんなのよ、あんたたち」
「――説明しよう! 由良夏樹は異世界勇者である! 地球に帰還してから無双していたが、ある日、神奈征四郎という復讐者と相対した。そして、剣を合わせ、――しゅき! となったのである!」
「……ふざけているの?」
「俺が真面目にやってるように見えんのかよ!」
もちろん、夏樹が真面目にやっているわけではない。
母が好きそうな、ドロドロとした昼ドラみたいな空気を払拭したかったので、ふざけにふざけただけだ。
「……このガキ」
「あれぇ? そんな口の利き方していいのぉ? 俺ー、天照大神様と友達だよぉ。素盞嗚尊は俺のパシリだからねぇ。月読先生は俺の恩師だしぃ。三貴子と知り合いだから? わかるぅ?」
「そんなことがあるはず」
「やめろ、朱美。この少年は、本当に神々と親交がある」
「――な」
征四郎の言葉に絶句する朱美に、夏樹はドヤ顔した。
まさか朱美も、学生服を着た少年が素戔嗚命と戦った人間だとはさすがにわかるまい。
だが、征四郎が嘘をつくような人間ではないとわかっているのだろう、信じられないような顔をして夏樹をまじまじと見る。
それから、取り繕うとして、できなかった。
無理もない。もう、散々、素を見られている。
「言っておくが、こいつは水無月家とも懇意だからな。新興の風間家なら、旧家に目をつけられたらどうなるかわからないわけじゃないだろう」
「……よく見たら、あなた七森家の落ちこぼれじゃない。なにを偉そうに」
「風間家の浮気女よりは偉いぜ」
「このっ」
どうやら朱美は風間家という一族から神奈家に嫁いできたようだ。そして、千手の実家もなにかしら知っているらしい。
「……あのさ、銀子さん。風間家って知ってる?」
「さあ?」
「役に立たんやつじゃのう。霊能関係を把握しているんじゃないんか?」
「いやいや、無理を言わないでほしいっす。七森、水無月、神奈みたいな昔からある家ならともかく、成り上がりの新興一族なんて知らねーっすよ!」
せっかく夏樹がこっそり尋ねたのに、小梅と銀子が大きな声を出したので、「成り上がりの新興一族」と呼ばれた朱美が、射殺さんと睨んでくる。
「――あ、あんた、青山銀子じゃない! 神奈家の魔剣を奪った張本人が、よくものこのこと!」
「ほら、こうなったーっす! 絶対言われると思ったっす! 言っておきますけど、正式に受け取ったっすからね! 院だって返せなんて言ってきてねーっすから! 魔剣花子だって、私のもとで楽しくやってるっすからね!」
「一族の魔剣に、そんなふざけた名前を!」
「ふざけてねーっすよ! つーか、股の緩いビッチがなーんで私に文句言うんすか!? あんたの旦那は、魔剣奪われたまんま平然としているし、義理の父親は金払うから返してくれって泣きついたっすよ! 神奈征四郎だけが、ちゃんと取り戻そうと戦いにきたっす! こんの、恥知らず!」
「……銀子が魔剣を奪わなければ、そもそもこんな面倒ごとにならなかったんは間違いないんじゃがな」
「シャラップ、っす! 小梅さん! それを言っちゃぁ、話が進まないっす!」
そろそろ話がぐだぐだしてきて、夏樹が「ざまぁ」できずに飽きてきた時だった。
「そこまでです」
静かな、だが、よく通る女性の声が響いた。
屋敷の中からは、着物姿の中年女性が出てくる。
雰囲気はどこか征四郎に似ていた。
「――母上」
「お帰りなさい、征四郎。そして、みなさま。ようこそ神奈家へ。征四郎の母であり、神奈家当主の神奈妙子と申します。心から歓迎致します」