作品タイトル不明
48「三原家が心配じゃね?」
三原一登が中学校に行こうと身支度を整えている時だった。
自宅の電話が鳴り、母が出ると、大きな驚く声が聞こえた。
「――そっか。今日だったんだ」
先日、兄の三原優斗が亡くなったことを知る人間は少ない。
霊能関係に関わった死なので、一般人である両親が知ることはできない。
一登自身も偶然に偶然が重なって霊能関係を知ったのだ。もしかすると、両親と同じようにいきなり知らされて驚いていたかもしれない。
一登は、兄が亡くなったことへの悲しみはない。
優斗は一登のことはもちろん、幼馴染みである由良夏樹のことを殺そうとした。結果として、力に振り回されて自爆というなんとも言えない死に方をしたのだが、兄の死を目の当たりにして――正直ほっとした。
兄がモテることは幼い頃から知っていたし、一登の初恋相手の少女にも手を出していた。
他にも、一登の幼馴染みであり親友でもある由良夏樹に淡い恋心を抱く少女を始め、誰かに想いを寄せる少女を、誰かの幼馴染みを、誰かが恋する少女を奪っていた。
その手の早さに、一登だけではなく両親も呆れていた。
また普通の恋人のような関係ではなく、ハーレムを築いて悦に浸っているところもあったので、両親はいつか誰かを孕ませるのではないかとヒヤヒヤしていただろう。
両親が叱っても、誰かに僻まれても、行動を改めることなくやりたいようにやっていた兄が死んで、よかったとさえ思う。
本当に最後の最後までやりたいようにやっていたのだから、本人も思い残すことはないだろう。
「――一登。話があるの」
いつもよりも少しトーンの下がった声で母が呼んだので、振り返る。
そこには、悲しそうに顔を歪めながら、どこかほっとした印象を受ける母がいた。
(どれだけ親に迷惑かけていたんだよ。死んでほっとされるとか、本当にクズだったな)
きっと自分が知らないだけで、両親の苦労は大きかったと思われる。
いくら兄が中学生だからとはいえ、息子の訃報を聞いた親にこんな顔をさせるなんて許されることではない。
「うん。どうしたの?」
「お兄ちゃんね、亡くなったそうよ。なんでも、その、事故に遭ったそうなの」
「事故?」
「ええ。まったく……自転車で坂道を走っていたところを転がって、打ちどころが悪かったそうよ。最後の最後まで迷惑をかけて……」
死因に関しては、警察がなんとかしてくれたんだと思われる。
警察内の霊能関係に関わる青山銀子が任せてほしいと言っていた。あくまでも、誰にも迷惑をかけず、誰かになにかをされたわけでもなく、自分の責任で亡くなったことにしてくれたようだ。
亡骸はサマエルが綺麗にしてくれたので、この後、遺体を見ても、両親がショックを受けることはないだろう。
その後、母と一緒にリビングに行き、まだ出社していなかった父を含めて話をしたが、あまりよく覚えていない。
両親は警察に行き、一登は学校を休むこととなった。
それだけだ。
両親が出かけ、ベッドの上でぼけっとしていると、携帯が鳴った。
夏樹が「大丈夫か?」と心配するメッセージを送ってきてくれた。
すると、次々メッセージが入ってくる。
小梅、銀子、ジャック、ナンシー。
アルフォンス、アルフォンスを介して蓮も。
天照大神、澪、都、雲海、星雲、茅の水無月家からも。
青森からは、さまたん、マモン、ヨッちゃんからも。
サタンとルシフェルからもメッセージが届いた。
月読先生からも。
あと、連絡先を交換していないのに、ゴッドからも「お悔やみ申し上げます」と一言来ていて、笑ってしまった。
「みんな……心配してくれてありがとう」
兄が死んでほっとしていた。
だけど、そんな自分が少し嫌だった。
しかし、多くの人たちに心配してもらえて、心が軽くなった気がする。
「嫌な兄貴だったし、どれだけ過去を思い返してもいい思い出なんてないけど……最後はちゃんと送ってあげよう」
後日、通夜と葬儀は親族だけで静かに行われた。
唯一、夏樹と春子だけが、親族外で参加した。
当初、優斗の恋人たちが押しかけてくるのではないかと不安だったが、誰ひとりとしてくることはなかった。