作品タイトル不明
47「不在着信多いんじゃね?」
向島市にある、七森千手のマンションの一室で神奈征四郎は目を覚ました。
千手のマンションは、部屋数こそあったが、来客用のベッドなどという気の利いたものはなかった。だが、野宿をしていた征四郎にとって屋根がある場所で、虫や動物の心配をせずに寝られることはストレスがなく快適だった。
だが、起きてみると、身体の疲れは取れているが、精神的に疲れている。
「……変な夢を見た。なんだったんだ、あれは?」
枕元に置いてあったミネラルウォーターを飲み干し、リビングに向かうと、千手がコーヒーを飲みながら、電子煙草を咥えてニュースを見ている。
「よう、おはようさん。朝食が食いたきゃ、下のコンビニに行ってくれ。コーヒーならあるけど、どうする?」
「コーヒーをいただこう」
千手は「あいよ」と返事をすると、キッチンに置かれているコーヒーメーカーから可愛らしい宇宙人がデザインされたマグカップにコーヒーを注いで征四郎に手渡す。
「……ありがとう」
目覚めのコーヒーを飲み、一息ついてソファーに腰を下ろす。
「なんだかうなされているようだったけど、大丈夫か? 気を遣って起こさなかったけどよ」
「そこは起こしてもらいたかった。悪夢というか、よくわからん夢を見ていた」
「どんな夢だよ?」
「金髪のチャラチャラした奴が、あんたが俺っちのご主人様っしょ? しーくーよーろー! とか言って馴れ馴れしく肩を組んできたかと思えば、延々と自分語りしていた」
「どんな夢だよ!?」
きっと疲れていたのだろう、と征四郎は結論づける。
「そういえば、さっきからずっと携帯が鳴りっぱなしだぜ」
「……ここ何年も誰からも連絡はなかったんだが、珍しいな」
「じゃあ、なんで持ってたんだよ」
急に寂しいことを言う征四郎に、千手は突っ込んだ。
だが、よく考えれば、征四郎は家を飛び出し、修行に明け暮れ、それでも限界が来たため神剣を手に入れようとしていたのだ。
家からすると、関わり合いにならないと決めていたはずだ。
なによりも、一族に伝わる魔剣を奪われた征四郎を神奈家が絶縁したのは、業界では有名な話だった。
千手としても、なぜ今さら家から電話がくるのかわからない。
「――これは、なんというか」
「誰からだった?」
「父と、弟と、元婚約者から……全部で百件ほど着信記録があるんだが」
「こえーな! どこのホラーだよ! しかも、お前と仲悪い奴らだけじゃん!」
「……母からメールが来ている。……なぜ絵文字だけなんだ? しかもグッジョブ」
「マジかよ。……うわぁ、本当に絵文字ひとつだな」
いったい何が神奈家で起きているのかわからず、ふたりは揃って首を傾げた。
「今日は、迷惑をかけたので母に挨拶をするべく伺おうと思っていたのでちょうどいい」
「だよな! 俺は昨日からわくわくしていたんだぜ!」
「……気持ちはありがたいが、穏便に頼む」
「わかってるって! いやー、お前を捨てた婚約者がどんな顔をするかなぁ。弟とか、絶対顔色悪いだろ! うけけけけけけ!」
邪悪な笑いを始めた千手に、征四郎は嘆息した。
昨日までは、不仲だった弟にも、自分を捨てた婚約者にも恨みはあったが、不思議と今の征四郎にはそのような感情はない。
むしろ、人と神の戦いを目にし、神剣を譲り受けたことで、腐っていないで強くなろうと決意を新たにしたので、清々しい。
自分を毛嫌いしていた父にも、興味はなく、ただ母への謝罪と、よくしてくれた家人たちに挨拶をしたい。
それだけを思っていた。
今の征四郎には、元婚約者も、弟も、父も、もうどうでもよかったのだ。
「さあ、コーヒー飲んだら、夏樹たちと合流して、お弁当持ってお出かけだぁ!」
「……ほどほどにな」