作品タイトル不明
45「ざまぁな予感じゃね?」
神奈家次期当主神奈 礼央(れお) は、妻の朱美と共に、当主である父礼次郎から、行方不明だった兄が素戔嗚尊が院に預けていた神剣を奪って逃走中であることを知らされて、悪態をついていた。
「ったくさ、一族の魔剣を奪われて恥を晒しただけじゃなくて、窃盗まで……殺してもいいんじゃないの、親父?」
「それも考えている。院からは、今回は関わるなと言われているが、一族の恥を晒すなら殺してしまうのもいいだろう。幼い頃から要領の悪い子供だったが、ここまでとは……」
「礼央もお父様も、あまり物騒なことを言わないでくださいね。あんな負け犬、放っておいたって院の方で処罰してくれるのではないですか?」
この場に、征四郎の母はいない。
礼央を次期当主として認めておらず、また、婚約者であった征四郎をあっさり捨てて――いや、婚約中でありながら弟の礼央と浮気をしていた挙句、あっさり見捨てて結婚までした朱美を嫌悪しており、結婚を認めていないため、屋敷の離れで生活をしているのだ。
また、使用人たちも、礼央と朱美の関係を快く思っておらず、征四郎に帰ってきてほしいと願っている者は多い。
「兄貴も自棄になったんじゃねえの。魔剣だけじゃなくて、次期当主の座も、朱美も俺に奪われたんだからさ」
「もうっ、礼央ったら、お父様の前で!」
「ははははは。気にすることはない。朱美くんを繋ぎ止められなかった征四郎が悪いのだからな」
礼央と朱美には子供がいる。
征四郎の婚約者であったときには既に、命を宿していたのだ。
本来ならば、浮気であり、訴えられて当たり前だったが、すべてを失い絶望にいた征四郎は朱美はもちろん、礼央にもなにもできなかったのだ。
唯一、征四郎は母神奈妙子に挨拶をしにきたが、礼央によって追い出されてしまっている。
もちろん妙子が激怒したことは言うまでもない。
もともと神奈妙子は、神奈家の直系であるが、夫を立てるために当主を譲っていた。それを良い気になった礼次郎は、愛人を作り子を産ませた。その子供が礼央だ。
だが、愛人は子供はいらなかったようで、どこかに消えてしまった。妙子は残された子供を不憫と思い、我が子として分け隔てなく愛したのだが、まさか兄の婚約者を奪うような屑に育つとは思っていなかったのだ。
血の繋がりがないことこそ打ち明けてはいないが、ヘラヘラと笑って兄の失態を報告した礼央に、かつての愛人を思い出し、自らの仏心を後悔することになった。
以後、数年の間、妙子は礼央と朱美をいないものとして、離れで暮らしているのだ。
「とりあえず征四郎のことは忘れろ。それよりも、青山銀子に奪われた魔剣の代わりを用意しないと他家への面子が立たん。朱美くんの家の方で、ツテがあると聞いたが?」
「はい。実は、父が海外のコレクターにコネがあって……」
奪われた魔剣を取り戻そうとせず、金で別の魔剣を用意しようとする。
今の神奈家は、こんな感じだった。
――そして、夏樹と素盞嗚尊がガチで喧嘩をした翌日。
「どうしたんだよ、親父。朝早くから呼び出して」
「なにかあったんですか、お父様?」
怪訝そうなふたりに、礼次郎は青い顔をして口を開いた。
「今しがた、院の上層部から連絡があった。征四郎は素盞嗚尊様にお許しいただいたそうだ」
「は?」
「ど、どういうことですか?」
「そのままの意味だ! しかも、素盞嗚尊様から盗んだ十束剣をお譲りいただき、月読命様からも神剣を預けられたそうだ。……さらに月読命様が後見となるらしい」
礼央も朱美も、自分たちが想像もしていないことが起きてしまったため、理解ができない。
「ま、マジで意味がわからないんだけど」
「さらに、素盞嗚尊様は、お怒りのようだ。兄から婚約者を奪うような男や、浮気をするような女を軽蔑すると、おっしゃっていたようだ」
「……なんで」
「そん、な」
「……また、院の上層部は、正当な血筋ではない礼央が次期当主であることを認めないと言う」
「は? どういう意味だよ?」
「お父様!?」
礼次郎は、苦々しく言葉を続けた。
「お前は、妙子の子ではない。私が外で作った子供だ。神奈家の血筋ではない」
「……は?」
「――え?」
衝撃の事実に、礼央も朱美も固まってしまう。
「……お前たちは家から出て行け。無論、礼央は次期当主から外す。私も神奈家の当主を引退するように言われた。無論、逆らう気はない。神の怒りを誰が買いたいか!」
「じゃ、じゃあ、俺はどうなるんだよ!?」
「お父様! 子供もいるのですよ!」
「知るか! 私は妙子から離婚を言い渡されたんだ! 拒むこともできん! お前たちのことまで知ったことか!」