作品タイトル不明
44「聖剣さんいらっしゃいじゃね?」①
軽く手を振って帰路に着く千手と、夏樹たちに深々と一礼して二振りの剣を大事に抱きしめている征四郎が河原から去っていく。
祐介も「一日でイベントが多くて疲れっちゃった。お先に」と言って、蓮も「そろそろ戻らないと!」と慌てて帰っていった。
夏樹、小梅と銀子も疲れたと、背伸びをすると、自宅へ戻る。
「ただいまー」
「静かに、友よ」
「ジャック?」
帰宅した夏樹たちを出迎えてくれたのは、少し頬の赤いジャックだった。
「どったの?」
「お母上が寝ているのだ。夏樹が帰宅しないから心配していたのだが、ナンシーがクラフトビールを大量に購入してきて、あれよこれよと酔いつぶしてくれた。私も付き合ったのだが……限界に近い」
「あー、なんかごめんなさい」
「謝罪は、明日、お母上に言うといい」
現在の夏樹は学生服姿だが、濡れているし、破れているし、母に見つかれば言い訳できない状況だ。
素盞嗚尊とガチバトルしていました、と言って誰が信じるだろうか。
「……そういえば、俺様たちもナンシーと一杯やろうとして酒を買いに行ったんじゃった」
「おっさんの神剣の犠牲になっちゃいましたけどね。代わりにその倍以上のビールがゲットできたんで、寛容な銀子ちゃんは許してあげますけど」
「おどれが原因じゃろうて!」
もう何度も繰り返したやり取りをする小梅と銀子。
ジャックも何かあったことを察してくれたようで、とりあえず夕食を摂ろうということになった。
「あ、お帰りなさい」
「ただいまです、ナンシー。お母さんのことありがとうございました」
「いえいえ。春子さんはもうお部屋ですから。でもちゃんと明日、謝らないといけませんよ」
「ジャックにも言われました。ちゃんと謝ります」
「それがいいと思います。小梅と銀子もお帰りなさい」
「おう! 帰ったぞ!」
「お酒間に合わなくてすみませんっす」
礼を言うと、ナンシーはにっこり微笑み、冷めた夕食を温め直してくれる。
その間にうがい手洗いをした夏樹たちは、少し遅い夕食を食べることになった。
「ふーん。世界が違うと人間の食事も変わるのね」
「間違いなく俺が生まれ育った地球のほうがおいしいよ!」
「見た目からして全然違うもんねぇ」
だが、なぜか夏樹の隣には、いつの間にか桃色の髪をツインテールにした、幼い少女がいた。
「どちらさまじゃ!?」
「ふ、不法侵入っす! 警察警察!」
「おどれが警察じゃろう!」
「そ、そうでしたっす! あまりにも自然に、夏樹くんの食事をパクパク食べているんで、最初の一杯で酔っ払っちゃったのかと思ったっすよ!」
「あれ? みんなわかっててスルーしてたんじゃないの!?」
生姜焼きをバクバク食べていた小梅と、口元に泡を作った銀子が大声を出した。
ジャックとナンシーは、最初から気づいていたのだが、誰も触れないのでお客さんとして普通に接していたようだ。
桃色の少女――聖剣さんは、ふんっ、と鼻を鳴らした。
「せっかく地球とかいう面白い世界に来たんだから、少しは楽しませなさいよ! あと、最近、魔剣の方が出番多いんじゃないって、文句言いに来たのよ! べ、別に、私の方をたくさん使えって言う意味じゃないんだからね! 変な勘違いしないでよね!」
聖剣さんの言葉に、ぽかん、とした一同。
小梅と銀子は恐る恐る尋ねた。
「なんじゃ、このお手本みたいな古き良き時代のツンデレっ子は?」
「まったくっす。アニメ化したらエロ同人誌の餌食になるような子っすね!」
どうやらふたりは、聖剣さんの正体にまったく気づいていないようだった。
「夏樹ぃ! 教えてあげなさい。あたしが誰で、どんな存在なのかをね!」
「へい!」
髪をかき上げる聖剣さんに、なぜか夏樹が手下のように返事をする。
「この方は、聖剣さんです」
「は?」
「え?」
「俺が異世界で契約した……あ、すみません、いえ、契約をしていただいた、聖剣さんです。えっと、神鳴りの剣さんです」
紹介された聖剣は、平らな胸を張る。
「そうよ! 平伏しなさい! なんだったら、足を舐めさせてあげてもいいわよ!」
不遜な態度を取る聖剣さんに、顔を見合わせていた小梅と銀子が叫んだ。
「なんじゃとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「擬人化きたぁあああああああああああああああああああ!?」