作品タイトル不明
40「聖剣さんの本気じゃね?」②
「――ありえねえだろう」
素盞嗚尊は愕然としていた。
視界に広がるのは、気持ちのいいくらい晴れた青空だ。
神剣天叢雲剣と、素盞嗚尊自身の力を掛け合わせ、神の嵐で夏樹を、いや、この場にいる自分以外をすべて圧し殺すはずだった。
全力だったのだ。
敵意こそないが、殺意はあった。だが、言い訳にはならない。
殺すつもりで、一撃限定とはいえ、全力だったのだ。
神話に登場する嵐の神の嵐の一撃を――人間が放った雷によってすべてかき消されてしまった。
「ありえねえだろ、由良夏樹ぃ!」
雨のように彼岸花が舞う中、身体中から放電している夏樹がいた。
彼の手には、聖剣は握られていない。
――だが、それでいいのだ。
聖剣神鳴りの剣は、あくまでもわかりやすい力としての形状だ。
本来は、形を持たない雷の化身。
彼女の本当の名は、夏樹でさえ知らない。
現在の力であっても、あくまでも今の夏樹が扱えるギリギリまで彼女が力を貸してくれただけであって、まだ力を解放しきっていない。
夏樹は、異世界では彼自身の力と、非協力的な彼女の力のみで乗り切った。異世界を支配する魔神でさえ、聖剣という人が使いやすい形状をしていただけであり、力を貸してくれなかった彼女の力だけで屠ることができたのだ。
倒したのではない。完全な消失だ。
「聖剣はどうしやがった!」
「ああ、これ? 聖剣さんは別に剣じゃないんだよ」
「は?」
「剣なら使いやすいでしょ、ってだけで剣になっていただけなんだけど、そんな聖剣さんでも使える人間がいなくて、異世界に俺が喚ばれたんだよね? 知ってる? 今まで、聖剣さんに触れて生きていた人っていないんだよ? 全員が丸焦げなんだってさ。酷いよねぇ、異世界人って俺になーんにも情報を教えずに、聖剣さんを握らせたんだから」
「……まさか、お前……意思疎通ができているのか?」
「当たり前っしょ、魂があるんだから」
聖剣神鳴りの剣は、聖剣としての在り方を名付けたものだ。
雷刃雷命は、夏樹自身に雷を宿らせて、刃として解き放つ技であると同時に、雷として振る舞うことを許された技である。
「――いくよ、素盞嗚尊。俺と聖剣さんの力を堪能してから、死んでね」
雷鳴が響いた。
夏樹の姿がかき消え、稲妻を残して移動する。
神ならば、雷を斬ることくらいできるだろうが、夏樹の速度は雷速を超えている。あくまでも、夏樹の後を稲妻が追っているだけである。
「――いーなーずーまー勇者パーンチ!」
ネーミングセンス皆無の拳が素盞嗚尊の頬を捉えた。
刹那、素盞嗚尊が吹っ飛び、地面を跳ね、川に落ちる。
「なんかよくわからないけど、思いっきり雷――エクレアぁああああああああああああああ!」
エクレアという菓子は、稲妻のエクレールを由来にすると聞いたことがある夏樹は、全力で川に沈む素盞嗚尊に向かってとりあえず叫んで、雷をぶっ放す。
だが、素盞嗚尊も神だ。神剣天叢雲剣を持つ神だ。
「舐めんな、人間っ!」
川から飛び出してきた素盞嗚尊が天叢雲剣で雷撃を斬る。
その光景を見ても、夏樹は慌てることも、驚くこともなく、ただ楽しそうに破顔した。
「やるじゃん、神様! ――だけどさ、間合いに入れば聖剣がくるぜ――神鳴りの剣」
雷を宿したまま、夏樹は聖剣を振るう。
「天叢雲剣ぉっ!」
聖剣と神剣が音を立ててぶつかった余波で、衝撃波が生まれた。
真下にある川が破裂したように爆ぜ、水を撒き散らす。
ずぶ濡れになった勇者と神は、鍔迫り合いをすることなく、次の一手を打つ。
だが、夏樹の方が早い。
「――雷刃」
素盞嗚尊が天叢雲剣を再び振るおうとするよりも早く、夏樹がノーモーションで雷の刃を放った。
その一撃は、空から地面まで覆い尽くすほどであり、素盞嗚尊の肉体を縦に斬った。
神の肉体から赤い鮮血が舞う。
「硬いな、両断できなかった」
「……くそっ、強えな。これでまだ全力じゃねえんだろ、全力のお前と喧嘩したかったぜ」
「そうしたらワンパンで終わってましたけど?」
「――はっ、言うねぇ」
「言うさ」
笑った素盞嗚尊の腹部を、夏樹は聖剣神鳴りの剣で横一線に斬り裂いた。