作品タイトル不明
37「ツンツンじゃね?」
「おい! 由良! おいっ、由良! 嘘だろ、心臓止まっているじゃねえか!」
千手は必死に夏樹に声をかけるが、まったく反応がないので呼吸を確かめ、心臓に耳を当てて絶句した。
呼吸は止まり、心臓も動いていない。
「おい、あんた! 心臓マッサージだ!」
「わ、わかった!」
蓮は言われるまま夏樹の胸を強く押し始める。
「佐渡! これを使え、回復用の符だ!」
「僕は回復魔法を使えるから!」
「なら、どっちも使え! このまま死なせるな! 絶対に死なせるな!」
「わかってるよ!」
祐介は千手から符を受け取り、肩から脇腹にかけての傷に回復用の符を貼り付けた上で、異世界で散々使った回復魔法を全力で使った。
傷は見る見る治っていくのだが、息は吹き返さない。
「ああっ、くそ! 戻ってこい!」
千手が人工呼吸を始めた。
「戻ってくるんだ! 由良夏樹!」
蓮が力を込め、
「夏樹くん! 戻ってきてくれ!」
祐介が後先考えずに魔力を込める。
異世界から帰還してからできた友人たちは、夏樹が息を吹き返すことを祈って、すべきことを続けた。
■
――なにもない真っ白な空間に夏樹はいた。
「あれー? もしかして、俺って死んじゃったとか?」
「あんたさぁ」
不意に声をかけられて、顔を上げると、いつの間にか眼前に白いゴスロリを身につけた桃色の髪をツインテールにした美少女がいた。
髪は地面に届くほどで、背丈は幼さを覚えるほど小さい。
どこか舌ったらずな、それでいて甘い声で、少女は夏樹に苛立った顔をして声をかけた。
「死んでないからぁ。一時的に死にかけたから、ちょうどいいからぁ、こっちに連れてきただけだからぁ」
「あ、どうも、聖剣さん。お久しぶりです」
夏樹には目の前の少女が、異世界から持ってきた聖剣だとすぐにわかった。
それもそのはず、異世界で何度か会っていたからだ。
「どうも、じゃないわよぉ! あんた、あたしと契約するときに負けないって言ったわよねぇ! なに、あんな品のない神に負けてんのよぉ! 本気出しなさいよぉ! つーか、本気出さなくたってあんなの殺せるでしょう! 七割でいけるでしょう!」
「いやいや、その七割が出せないんですって。五割で限界なのに、あと二割が出せるはずがないっていうか」
「死んでも出しなさいよぉ!」
「死んだらだせないよ!」
「あんな品のない神に負けるくらいなら、死んで勝ちなさいよぉ!」
「無茶言うなぁ」
聖剣は、ふんっ、と鼻を鳴らすと、夏樹に背を向けてしまう。
「……あんた、あたしとの約束を破るつもりじゃないでしょうね」
「まだチャンスがあるのなら、勝つさ」
「――なら、力を貸してあげる」
「いいの?」
聖剣は今まで力を貸してくれたことがない。
あくまでも契約して、その力を夏樹が勝手に振るっているだけで、使い手として認めても協力関係ではなかった。
もし、彼女が力を貸してくれれば――聖剣の本来の力を使うことができるだろう。
「し、仕方がないから、今回は力を貸してあげる! いい? あたしが力を貸すからって、あんたの全盛期よりも弱いんだからね! わかる? あんたが弱体化したから、力を貸してあげてもそれだけなんだからね! だから、無茶すんなよ!」
「あ、はい。お気遣いどうもありがとうございます」
「ふ、ふん。わかればいいのよぉ! で、でも、変な勘違いしないでよね! あんたのためじゃないんだから、あくまでも主人が弱いせいで、あたしまで弱いって勘違いされるのが嫌なだけなんだからね!」
「あ、ありがとうございます」
「ふんっ、わかればいいのよ! あんたに必要なのは、俺様天使でも、腐った女でもなく、このあたしなんだからねっ!」
決して振り向いてくれない聖剣だが、彼女の頬が少しだけ赤い気がした。
「感謝の気持ちがあるなら、平伏しなさい!」
「ははー!」
「んじゃ、早く、神だかなんだかわかんないおっさんを倒してきなさい!」
■
「――ひゅうっ」
聖剣に見送られた夏樹は、素盞嗚尊の神域の中で息を吹き返した。