作品タイトル不明
34「素盞嗚尊と喧嘩じゃね?」①
「おいおい、マジか? 今までは、おじさん笑って見逃してやっていたけど、その殺気はいただけねえな。この素盞嗚尊相手に、それはまずいだろう? 八岐大蛇みたいにぶっ殺すぞ、ガキ?」
「ヒュドラ倒したくらいでいい気になってんじゃねえよ。こっちも異世界でヒュドラ狩りまくってるからね? 滅ぼしたからね? 一体しか倒してないのに、偉そうにしないでくれますー?」
八岐大蛇がどの程度の怪物か知らないが、夏樹は異世界でヒュドラという種を滅ぼしている。
怪物一匹倒したくらいで偉そうにするなと、高笑う。
「いいぜ、いいぜ。おじさん、お前みたいなクソガキは大好きだ!」
「俺はあんたみたいな加齢臭がするおっさんは大嫌いだ!」
「そう言うなって、どうせお前も十年後には体臭気にして、枕についた抜け毛を気にするんだ。――辛いぜ?」
「泣きそうな顔をすんなよ、ぶっ飛ばすぞ!」
どうやら素盞嗚尊は真面目にやるつもりはないらしい。
だが、逃す気もない。
きっと言葉通り、小梅と銀子を土産代わりに奪っていくだろう。
それは、許せない。
「いい感じに、口喧嘩したところで、今度はガチで喧嘩しようや。月読から、お前には手を出すなって言われていたんで我慢していたんだが、こうなったらもう後には引けねえよなぁ」
「きっと月読先生は、泣かされるのがわかっているからやめておけって言っただけだぜ」
「いいねぇ。こちとら数年前に映画で感動してから泣いたことがねえ」
だんっ、と素盞嗚尊が虚空を殴りつけると、世界が歪む。
砂利と草ばかりだった河原にいたはずの夏樹たちが、彼岸花が咲き乱れる河原に移動していた。
「俺の世界にようこそ、歓迎するぜ」
「もっといい世界に歓迎してほしかったけどね」
「そう言うなって。俺は、寛大な神様だから、お前にチャンスをやるよ。盗人はもうどうでもいい。好きにしろ。だが、由良夏樹、お前は俺の剣を分割しやがったからな。土下座したら許してやろうかと思ったが、そんなことしねえだろう?」
「あんたならするのか?」
「すーさっさっさっさっ! しねえなぁ! いやー、悪かった悪かった! だよな、男の子だもんな! よし、じゃあ喧嘩だ喧嘩! 俺を楽しませてくれたら、それで勘弁してやるよ! 頑張れよ!」
「あんたの墓にはすさすさって掘ってやるから安心しろ!」
「いい子だ! お前が、俺と喧嘩して生きていたら、腹心として優遇してやるぜ!」
「舐めんな。俺と喧嘩して、あんたが生きていたら、青森送りで勘弁してやる! 語尾と動画配信を勉強してこい!」
夏樹と素盞嗚尊が同時に地面を蹴った。
彼岸花が散り、宙を舞う。
「まずは拳で楽しもうぜ!」
次の瞬間、素盞嗚尊の拳が夏樹の顔面を捉え、夏樹の蹴りが素盞嗚尊の股間に直撃した。