作品タイトル不明
33「すさすさとかないんじゃね?」②
「――神鳴れ」
夏樹が声を発すると同時に、雷が迸り一帯に広がる。
周辺の住まいで停電が起き、河原が闇に覆われる。川に反射する月の光で、うっすらと視界が保たれる。
同時に、素盞嗚尊から放たれていた圧も消えた。
「……やるじゃねえか、俺の圧を耐えるとは。すさすさ」
「圧ってなに? なんも感じなかったんですけど」
「みたいだな。どうやら、坊主は人間の癖にこっち側に足を踏み込んでいるらしいな」
「どうでもいいですー。んで、その素盞嗚尊が何の用なの?」
「あのね、様をつけろとか言わないけど、せめてさん付けしてほしいかなって、おじさん思うんだけど」
「うるせえよ」
「……今どきの子は怖い。なんか怖い。敬意がなくて嫌っ」
面倒臭いおっさんだ、と夏樹は嘆息する。
用件を言わず、遠回しにぐだぐだと長話をする奴が嫌いだった。
異世界でも、戦争に勝つ、というシンプルな内容を三十分も話していた馬鹿な国王を思い出す。
校長先生の話は長いには長いが、学校のこと、生徒のこと、最近の社会のことなど無駄なことはない。
見習って欲しいものだ。
「それで、なんの、用です、か!」
「――いやさぁ、俺が使っていた剣の一本が盗まれたらしいんだけど、あんまし気にしてなかったんだわ。十束剣って神話で八岐大蛇ぶっ殺した剣ってなってるけど、俺だって一本の剣をずっと使っていたわけじゃねえんだよ。だから、盗まれてもお古だからどうぞって感じだったんだわ。売っても一円にもならねえしな! すさすさ!」
「思い出したみたいに語尾つけてんじゃねーよ!」
「だけど、ふっと思ったんだわ。俺の物を誰かにくれてやる義理もねえし、盗人を野放しにするのも俺らしくねえ」
「つまりなんだ?」
「――盗人をぶっ殺しに来た。ついでに十束剣も回収だ」
なるほど、と納得した。
神のくせに後で意見を変えるとは、なかなかみみっちい奴だと思いながら、夏樹は分割された十束剣を拾って素盞嗚尊に手渡す。
「はい、じゃあ、お疲れーっす」
「うん。そうじゃなくてね。よく斬れたね、こんなんでも神格あるんだけど。剣の意志もあるんだけど?」
「魔王の魔剣舐めんな」
「だから、さっきからどうしてお前は俺にそう態度が悪いの!?」
「すさすさが気に入らない」
「……のうのうならあり?」
「うーん。ねーよ!」
「ないのかよ。なら、俺はすさすさを貫くぜ! 今、部下にすさすさチャンネルを開設させているからな。帰ったら、動画撮影だ! すーさっさっさっさっさっ!」
「……これが、神? 天照大神さんのほうがよっぽど神じゃないか! あんなんでもちゃんと神に見えるぞ!」
「……あのね、一応太陽神だからね。いや、俺にとっても姉ちゃんはあんなのだけど、坊主にあんなの呼ばわりされたら、可哀想じゃないけどほらなんていうかさ」
「はいはい。わかったら、さっさと剣持って帰ってください」
しっし、と手を振る夏樹。
素盞嗚尊はにんまりと嫌な笑みを浮かべた。
「わかるぜ、そっちの盗人を庇っているんだろうが、そうはいかねえよ。ちゃんとこの場で殺してやるから。ああ、安心していいぜ。お前さんたちにはなんもしねーから」
「あのさ、もうね、征四郎さんと俺たちは仲直りしたの。最初から何とかできた癖に何もしなかった奴が、後から来て偉そうなことを言ってんじゃねえよ」
「俺は神だぞ?」
「俺は勇者様だ、馬鹿野郎」
ははははははは、と夏樹と素盞嗚尊が笑う。
「ちょ、ターイムっす! タイムタイム!」
「お、おう?」
「ちょ、夏樹くん、くるっす! ほら、みんな円陣っす!」
「ちょ、銀子さん?」
無理やり銀子に引っ張られた夏樹は、強制的に円陣を組まされてしまう。
「なーにやってるっすか、素盞嗚尊に喧嘩売るとか正気っすか?」
「天照大神さんの弟でしょ? よゆーよゆー」
「おシャラップっす!」
天照大神の友達の銀子には、素盞嗚尊と喧嘩するのは問題があるらしい。
「夏樹くん、素盞嗚尊様は僕でも知ってるよ。やばいって」
「僕も同感かな。あえて戦う必要はないって思うかな」
祐介と蓮も、素盞嗚尊の力は感じ取っているようで、震えている。
「お前はなんで喧嘩売っちゃうかな? 神剣を折ってるだけでもやばいっていうのに、主をお呼びするんだ! 宇宙に逃げるぞ!」
千手はすでに逃亡を計画していた。
「少年よ。私は自分がしたことを償うつもりはある。それだけのことをしたのだ」
「でもさ」
「君たちを巻き込んでしまうことは避けたい」
征四郎はすでに覚悟を決めている様だった。
「夏樹、言っておくんじゃが。ひじょーに腹立たしいが、奴は俺様よりも強いんじゃよ」
「ま?」
「ま! まあ、数ミリくらいの差ではあるんじゃが、あくまでもごく僅かな差じゃぞ。じゃが、強いもんは強い。あと、面倒臭い奴じゃから関わらん方がええ」
「小梅ちゃんまでそんな」
「気持ちはわかるがのう。大蛇さんに酒飲ませて不意打ちとか、日本男児がすることじゃないじゃろうて。わかるぞ、わかる。あんな気のいいおっちゃんを……まあ、酒が入るとセクハラするからその辺が玉に瑕じゃが」
「まさかのお知り合い!?」
ちょろっと気になることを言う小梅だが、彼女も素盞嗚尊とやらかすことは避けたい様だった。
「おーい、そろそろいいかー! おじさん、放置されると寂しくて死んじゃうぞ! うさぎさんなんだぞ!」
「……全員でぶっ殺さない? なんか、いちいち言動がムカつくんだよなぁ」
どうやら夏樹はとことん素盞嗚尊と相性が悪いらしい。
「一応、言っておくが、そこの男を差し出せばいいんだからなー? ついでに、お嬢ちゃんと、サタンの娘は戦利品でいただくが、それだけで勘弁してやるって言ってんだぞー?」
――ぷつん。
「うちの小梅ちゃんと銀子さんに手を出すだと!? ぶっ殺すぞ、このクソ野郎!」