作品タイトル不明
13「大地の勇者って強そうじゃね?」
「遅くなってごめんね。ずっと引きこもっていた僕が、急にお風呂入って外に出かけるなんて、さすがに母もびっくりしちゃって……説明するのに苦労したよ」
「さすがに異世界のせいで大変だったとは言えないもんね」
「そんなこと言ったら、それこそ病人扱いじゃねえか」
ははは、と祐介が苦笑する。
身なりはきちんとして、チノパンに薄手のセーターを着ている。無精髭も剃って、清潔感がある。身だしなみを整えた祐介は、愛嬌のある人の好さそうな青年だった。
「……久しぶりに外に出られたよ。由良くんと七森さんのおかげかな? 少し怖いけど、ふたりのおかげでなんとかなりそうだよ」
「気分が悪くなったら場所を変えようね」
「……平日で人は少ないが、配慮が足りなかったな。すまん」
「あ、ううん。いいんだ。僕もいつまでもあのままじゃいけないって思っていたし……そういえばずっとまともに食べていなかったからお腹が空いちゃったな。注文していいかな?」
「あ、俺も俺も!」
「よし。ここはお兄さんが奢ってやる」
「さすがおじさん!」
「おい、由良! お兄さんだ! お兄さん! ――って、しばらく飯をまともに食っていないのに、いきなり食べて平気か? ファミレスにお粥なんてないだろ」
千手が祐介を心配するが、彼は「平気です」と答えた。
「異世界でも使ったんですけど、僕は回復魔法が得意なので胃が無理をしても大丈夫ですよ」
「……佐渡くんって回復特化型なの?」
「勇者っていうと攻撃主体に考えちまうな。あ、ゲームのせいか?」
「ははは。一応、僕も勇者は勇者なんですけど、大地の勇者って呼ばれていましたね。回復魔法、防御、そして土魔法を主に使います。他にも植物なんかも操れますよ」
「おお! なんかすごい!」
「ただ、攻撃としては地味なんですよ。土の壁とか、石で圧殺とか、蔦で締め殺すとか……パッとしないんです。ただ、回復魔法は自信あって……でも、回復しても必ず早くしろよとかいつも罵声で……ああ、思い出しただけで気が滅入る」
「……俺は話でしか聞いてないが、異世界人俺よりも屑だろ」
「否定はしないかな」
異世界人は礼など言わない。よほど自分が旨味を吸ったなどすれば、また吸いたくて礼を言うが、心からの礼など夏樹だって言われたことがあるかどうか。
その後、夏樹はオムライスを頼み、千手はサンドイッチ、祐介はドリアを頼んだ。
料理が来るまでの間も会話が弾む。主に祐介が会話に飢えていたように伺えた。
「由良くんは、えっと勇者でいいんだよね?」
「ええ、不本意ながら。聖剣に選ばれたとかで異世界に召喚されて、さらに海の勇者としての素質もあったので、異世界人に対魔王の兵器くらいの感覚で使われました」
「……お前な、そんなあっさりと」
「言うことなんてほとんど聞いてやりませんでしたけどね! 最初こそ、暴力やなんかで支配しようとしましたけど、俺のほうが強かったし?」
「ドヤ顔すんな。だが、そのくらいの方がよかったのかもしれねえな」
夏樹も夏樹で苦労はあったが、きっと祐介ほどではなかっただろう。
夏樹と祐介の最大の違いは、異世界で死亡しているかしていないかだ。
不幸中の幸いなことに、夏樹には持て余すほど力があった。
おかげで、異世界人も怯えるほどの強さで魔王を倒し、魔神を殺し、異世界から帰還した。しかし、祐介は途中で死んでいる。これだけで、心の傷は違うだろうと思う。
「やっぱり由良くんが聖剣の勇者なんだ。異世界人がせめて聖剣があれば、なんて言っていたけど、聖剣ってどうなったの?」
「え? 持ってるよ?」
「持ってるの!?」
「なんなら魔王の魔剣も、魔王軍幹部からぶんどった魔剣も何本もあるよ」
「魔王の剣も持ってるの!?」
「……由良ぁ」
「や、やだなぁ、正当な権利です! ほら、ゲームでも敵を倒したら武器が落ちるじゃん? それと同じ同じ! それに聖剣だって、俺を選んだんだし、そのせいで異世界に連れてこられたんだし、お詫びとして受け取ってもいいってことだよ!」
夏樹的には聖剣を奪ってきたつもりはないが、ついてきてしまったものは仕方がない。責任を持って面倒見ようと決めている。
魔剣に関しては、正当な権利として、金に困ったらどこかに売っ払ってやろうと企んでもいた。
「あ、あはははは……魔王も魔剣がないから弱体化していたみたいだし、由良くんのおかげでもあるのかな」
引き攣った笑みを浮かべる祐介の前にドリアが運ばれてきた。
続いて、オムライスとサンドイッチも来た。
「とりあえず、ご飯食べながらにしよっか」
「そうだね」
三人は「いただきます」と言って、食事を始めた。
夏樹は千手に目で「いつ言うの?」と尋ねると、彼は「飯が終わってからだ」と視線を送ってくる。
どんな結果になるかはわからないが、祐介が少しでも前向きになってくれればいいと同じ異世界の被害者として願うのだった。