作品タイトル不明
12「リリスさんからの提案じゃね?」②
千手が癒しには女性と言ったように、リリスまでも同じことを言ったことに夏樹は動揺を隠せなかった。
「どうした?」
夏樹の様子に新しい煙草を咥えた千手が尋ねてくるが、なんでもない、と手を振る。
一応、夏樹だって思春期だ。
傷ついた男の子に女の子を会わせて、楽しいご飯とカラオケ、なんて展開ではないことくらいはわかる。
「いや、あの、でもですね、そういう愛のないことはよくないんじゃ」
「そうね。確かに、愛がないのはよくないわ。その子は人間不信で女性不信でしょう。でもね、大丈夫。私の知り合いのサキュバスには、傷ついた男の子を生涯支えたいって子がたくさんいるの。少々、依存しちゃうけど、大した問題じゃないわ」
「……大した問題な気がするんですけど」
「男の子が細かいこと言わないの! じゃあ、喫茶店にその子を連れてきてね」
「あ、ちょ……電話切れちゃった」
これは祐介を連れて行く流れなのだろうか、と夏樹は悩む。
「おい、由良。どうしたんだって?」
「えっと、リリスさんが」
「……待て、リリスってどこのリリスだ?」
「えっと、知り合いにサキュバスがいて、サタンとの間に子供がいるリリスさんです」
「うお……え? なんなの? まさかサタンと知り合いとかないよな?」
「え? 知り合いですけど?」
「マ?」
「マ」
千手がものすごく困った顔をした。
理解できない、というか、したくない、そんな感じだ。
気持ちはとてもよくわかる。
夏樹も出会う神や魔族がビッグネームばかりだったのだから。
「……まさかとは思うけど、俺にお前を案内させたのは」
「よくわからないけど、ゴッドじゃない?」
「ゴッドとも会っているのかよ!?」
「会ってるもなにも、あんたが待っていた喫茶店にいたよ!」
「うわぁ」
「リリスさんもいたよ!」
「ゴッドとリリスが一緒とか意味わかんねぇ」
頭を抱えてぶつぶつ言い始める千手を放っておくことにして、ウエイターさんにアイスティーのおかわりをした。
しばらくして、アイスティーが運ばれてくると、疲れたせいか糖分を摂取したくなって、アイスティーにガムシロップを入れて飲む。
甘さが身体中に染み渡った気がした。
「……と、とにかく由良の交友関係は置いておこう。んで、そのリリスがなんだって言うんだ?」
「えっと、男の子を癒すのは女の子だって」
「そこはよし」
「よかったら、サキュバス紹介するって」
「……実は俺、どっかの中学生にボコされたトラウマで心に傷を負っているんです。俺にもサキュバスを紹介してください」
「嫌だよ!」
「頼むよ!」
「えぇ? サキュバスってそんないいの? 淫魔なら襲い掛かってきたから殺したことあるけど」
「淫魔とサキュバスは全然違うっての。サキュバスは、人間の生命力を糧にするんだが、めっちゃ尽くしてくれるんだよ」
「それって、ただ尽くしてくれる人なら誰でもいいとかいう最低発言じゃ」
「違うって! サキュバスってイメージ的に男なら誰でもって感じだが、実際はその逆なんだよ。趣味嗜好がめちゃくちゃ厳しいんだぞ!」
「詳しくて引くー」
かつては神が宇宙人ではないかという説を唱えていた男が、実はサキュバスに詳しかったというのはちょっといかがなものかと思う。
「お、俺のことはあとでよろしく頼むとして、佐渡をサキュバスに任せるのはいいことかもしれないぞ」
「本当にぃ?」
「マジだって。サキュバスに気に入られることがあれば、佐渡の抱えている悲しみも、辛さも、すべて一緒に背負ってくれる。しかも献身的に尽くしてくれるんだ。嫌な記憶なんて塗り潰してくれるはずだ」
「そんな簡単にいくかなぁ」
「由良だって、異世界の記憶よりも良いことってあるだろう? それがサキュバスで悪いことはない」
千手の言う通り、夏樹は異世界の記憶が霞むほどよい出会いと思い出ができた。
銀子から始まり、ジャックとナンシー、そして小梅。サタンとルシフェル、アルフォンスとミカエル、天照大神、月読命、水無月家の人たちと、異世界を思い出している暇がないほど良い出会いがあった。
「……うーん。じゃあ、本人が、うん、って言ったら」
「任せろ。俺が言葉巧みに承諾させてやる」
「あんた……割と愉快な人だな」
「どう言う意味だ、こら!」
そんなやりとりをしていると、風呂に入ってさっぱりし、着替えた祐介がファミレスに入ってきた。