作品タイトル不明
10「被害者に会いに来たんじゃね?」③
「いろいろ、ごめん」
冷静さを取り戻した佐渡祐介は、由良夏樹と七森千住に向けて謝罪した。
「別にいいよ。なんていうか、人ごとじゃないっていうかさ。実際、人ごとじゃないんだけどね」
「……俺としては、異世界にふたりも召喚されていたことのほうが驚きなんだがな」
千手も異世界の存在を知っているが、それはあくまでも昔の人間が異世界に召喚されたことがあることや、異世界からこちら側の世界に来た人間がいるというざっくりとした程度だ。
あくまでも千手は由良夏樹を佐渡祐介のもとへ案内する役目を与えられただけで、詳細までは知らなかったのだ。
「ゆ、由良くんだよね、あの、異世界は本当にあるんだよね? 僕のした経験は本物なんだよね?」
「うん。いっそ夢だったらいいんだろうけど、現実に起きたことだよ。俺も佐渡くんと同じように異世界に召喚されて、戻ってきた。そして、地球では時間は動いていなかった」
「やっぱり……僕はてっきり狂ってしまったんじゃないかって」
「大丈夫。佐渡さんは正気だよ。だけど、気持ちはわかるよ。あんなクソみたいな世界が存在するなんて思わないもんね」
「よかった……よかった。僕は正気なんだ。あれは夢でも妄想でもなくて、現実に起きたことだったんだね」
夏樹個人的に言わせてもらうと、あれだけ酷い世界が本当に実在している方が悪夢だが、祐介にとってはまず自分がちゃんと酷い目に遭ったとしてもちゃんと体験したことだとしっかり認識する方がいいので余計なことは言わない。
夏樹は、異世界にいる間に『これは現実である』と折り合いをつけていたので、帰還後に混乱はなかった。
祐介と大きく違うのは、夏樹は自らの意志で帰ってきたが、彼は死んでからゴッドの手によって帰還したのだ。おそらく、それも混乱理由なのだろう。
(つまり、ゴッドが悪い)
どこからか抗議する声が聞こえた気がしたが、夏樹は無視をした。
「で、でも、なんで僕のところに?」
「えっと、佐渡くんを地球に戻したゴッドが、吐き出す相手が必要だからって派遣されました!」
「え? ゴッドって?」
「ゴッドはゴッドだよ。なんだっけ、世界を創造するのに、六日間頑張って七日目は居酒屋で乾杯したっていう神様」
「……居酒屋はねーだろ。いや、その場に居合わせてないから断言はしないけどよう」
ふんわりしかゴッドのことを知らない夏樹に千手が突っ込んだ。
サタンの父親、小梅のおじいちゃんと言ってもいいのだが、「誰?」となるだろうし、説明が難しい。
「とりあえず、佐渡くんを地球に戻してくれた神様ってことで」
「あ、うん」
「ご家族にも異世界でありえないほど酷い目に遭っていたなんて言えないだろうから、同じ境遇の俺が話聞きにきました! よろしく!」
「……このお子様は、同じ異世界に召喚されている割には軽いな。お前さんは平気なのかよ?」
千手の問いに、夏樹は鼻で笑った。
「俺はあんな異世界の屑どもがどうなろうと気にしない! あいつらにされたことはちゃーんと仕返ししたし、特別言うことだって聞いていたわけじゃないしね。敵対勢力だった魔族たちだって、地球に帰ってくるのに邪魔だったから蹴散らしたけど、それだけだし?」
実際は、トラウマを抱えてはいるが、祐介ほどではないし、新しい出会いのおかげで克服しつつあったので、夏樹は強がりを言った。
「君は……そうか。僕も少しは前向きにならないとね。こうして帰ってこれたんだから」
「そうそう。ゴッドが言うには、二度と召喚されるようなことはないから安心してほしいって」
「信じていいのかな?」
「平気だと思うよ。ゴッドも思うことあったようだし」
「……なら、よかった。僕はとにかく、なにかの拍子でまた向こうの世界に再び喚ばれるんじゃないかって怖くて怖くて」
安心して涙を流す祐介の肩を、夏樹はそっと叩いた。
「……にしても、異世界っていうのはとんでもなく酷い世界みたいだな。どんな経験をしたら、ここまで拒絶反応をするんだ?」
不思議そうな顔をする千手に、夏樹と祐介は異世界で起きたことイベントを少し語った。
すると、宇宙人を解剖しようとした過去がある千手でも、顔色を悪くすることとなる。
「俺も屑だが、俺よりも屑な人間だな。まあ、帰ってこられてなによりだ。それで、お前さんたちはこれからどうするんだ?」
「俺は変わらず中学生活を送るけど?」
「いや、そうじゃなくてな」
千手の何気ない質問に、祐介は涙を流しながら答えた。
「僕はまた大学に通いたい。友達と笑いたいし、家族と目を見て話をしたい」
祐介の切実な願いに、夏樹と千手は顔を見合わせてどうしたものかと困った顔をするのだった。