作品タイトル不明
5「予想していたけどまたビッグネームじゃね?」
「難しい話は終わったかしら?」
一通りゴッドとの話が終わったタイミングで、カウンターにいた女性がトレイを持って微笑を浮かべてテーブルの横にいた。
「はい、カフェオレね。少し甘めにしてあるから、ゆっくり飲んでね」
「ありがとうございます」
夏樹の前に置かれたカフェオレからは、嫌味の一切ない珈琲の良い香りがした。
いただきます、と言って口をつけると、とても美味しかった。
ゴッドと会うことへのストレスで弱った胃に優しく、会話に疲れていた夏樹に甘さが広がっていく感じが心地いい。
「……あの、すみません。私には?」
「あ、ごめんなさいね。はい」
女性はにこやかな顔をゴッドに向けると、水の入ったグラスをゴッドの前に置いた。
「はい、水道水よ。たくさん飲んでね」
「…………いただきます」
ゴッドは扱いが悪いにも関わらず、大人しく水を飲んで、軽くげっぷをした。
「そうそう。夏樹くんに紹介しなければいけませんね」
「はい?」
「彼女は、この喫茶店のマスターですが、お察しの通り人ではありません」
「ですよねー」
「きっと夏樹くんも驚きますよ? なんと、小梅ちゃんのママなのです!」
「―――――――え? 小梅ちゃんのママ!?」
びっくりして目を剥く夏樹に、黒髪の女性はウインクした。
「小梅がお世話になっているわね。私は小梅の母で、魔族のリリスよ」
夏樹は勢いよく立ち上がると、慌てて小梅の母にお辞儀した。
「は、はじめまして! 俺は由良夏樹です! 小梅ちゃんとは家族のように仲良くさせてもらっています! よろしくお願いします! ていうか、やっぱりビッグネーム! またまたビッグネーム! だよね、サタンさんの奥さんなんだもん、ビッグネームだよね!」
「元気な子ね。あ、でも、ひとつ訂正をしないとね」
「訂正、ですか?」
「私は小梅の母親だけど、太一郎の奥さんじゃないわよ。結婚はしていないの。そこは間違えないように」
「あ、はい!」
笑みを消して真顔になったリリスに夏樹は頷くことしかできなかった。
ゴッドがやれやれみたいな感じで肩をすくめているのが、ちょっと腹が立つ。
「太一郎のことはさておき、小梅のことをよろしくね!」
「はい!」
「避妊はしなくていいから」
「はい! ――え? ええ!?」
反射で返事をしてしまったが、とんでもないことを言われた気がした。
夏樹の心臓がバクバクする。
「あの子ったら、私の娘なのに出会って数日で合体していないなんて。そっち方面は太一郎と一心が反対したから教えてないけど、だからってねぇ」
「ゴッド的にはそれぞれ愛に費やす時間は違うので、ゆっくり見守ってあげるべきかと」
「そうやって見守ってきたから二千年以上経っても彼氏がいなかったのだけどね」
というわけで、と夏樹の頭を撫でたリリスは吐息がかかるほど顔を近づけて念を押すように言った。
「避妊はいらないし、ガンガン励みなさいね」
「…………えっと、あの」
「リリスさん。あまり年頃の少年を追い詰めないであげてください」
「あーら、ゴッドの癖に理解があるようなことを言って。私が練習させてあげると言わないだけ褒めて欲しいわ」
妖艶な表情を浮かべて、唇を舐めるリリスに、
(ゴッドとは違う意味で心臓に悪いなぁ)
と、疲れたため息をつくのだった。