作品タイトル不明
6「とりあえず一発殴るんじゃね?」
ゴッドとまた会うことを約束し、リリスに丁寧に挨拶をした夏樹は、喫茶店から出た。
夏樹が喫茶店から数歩離れると、店内からこれでもかと発せられていた神気が消えているのがわかる。
ゴッドがどこかに行ったのか、喫茶店が力を外に干渉させない役割を果たしていたのかまではわからない。
「ゴッドはもうお腹いっぱいだよぉ。さてと、で、被害者の会を作るために俺の後に異世界に召喚された哀れな人と会うんだけど、お名前も住所も聞いてなーい! 遣いが来るって言ってたけど――あんたでいいのかな?」
夏樹が右手の道路に顔を向けると、電柱の影から紺色のスーツを身に着けた二十代半ばの青年が姿を現した。金髪に、丸いサングラスをかけている。
あまり強くはないが霊力を感じ取れるので、霊能力者だろう。
「よう、久しぶりだな」
「え?」
「え?」
気やすい感じで手を上げてきた青年に対し、夏樹は戸惑った。知り合いのような反応をしているが、覚えがない。
「まさか、俺のことを忘れたとかないよな?」
「…………」
「……え? 本当に覚えてないの?」
「あ、いやいや、覚えてますよ。あー、そうだった。懐かしいなぁ。小学生の時に教育実習で来ていた東海林先生だよね!」
「ちげぇえええええええええええええええええよ! 誰だよ! 俺は大学なんて行ってねえし、そもそもまともに学校なんて通ったことがねえよ! ありえないだろう! 数日前に会ったじゃねえか!」
「えー」
「思い出せよ、ほら、頑張れって。お前ならできるって! マジで、ちょっと、あれだけのことしておいて忘れるとか、俺泣くぞ! マジで泣くぞ! 赤ちゃんみたいに泣くぞ!」
「それはちょっと」
「じゃあ、思い出せよ!」
「無茶言うなぁ」
うーん、と夏樹は腕を組み悩む。
数秒ほど凝視していると、なんとなくだがどこかで会ったような気がする。が、それだけだ。
夏樹が異世界から帰還して九日目だが、初日以外はずっと濃厚な日々だった。
その際に出会っているのだろうが、マモンや天照大神、サタン、果てには宇宙人との邂逅などの印象が強すぎて霊能力者まで覚えていられない。
「ああっ、マジかよ! 俺だよ、俺! 宇宙人を攫って解剖しようとしていたバカ共の護衛をしていた霊能力者だよ!」
「思い出した! あー、いたいた! うわー、数日ぶりだねぇ!」
「ったく、マジで忘れているとかビビったぜ。ま、そういうことで俺が……なんだよ、手なんか出して。再会の握手か? あれ? ちょっと、待って、痛い痛い! 手が、手がミシミシ言ってる! 砕けちゃう! お手々砕けちゃうぅ!」
「ナンシーを解剖しようとかふざけたこと企んだ奴が、友達面して出てくるんじゃねーよ!」
「――ぐぺっ」
はっきりと男のことを思い出した夏樹は、握りしめた拳を青年の顔面に叩き込んだのだった。