作品タイトル不明
エピローグ2「眠れないんじゃね?」
異世界から帰還して八日目の夜。
思い返すと濃厚な日々を送っていた夏樹は、そろそろ寝る時間なのでベッドに寝転がっていた。
「うわ、本当にサマエルさん、農業系動画配信者さまたんやってるー」
月曜日の夜ということで、程よく酒盛りしている母と小梅たちの楽しそうな声が聞こえるのだが、さすがに一日学校をサボってしまったので明日は行かなければならない。
とはいえ、夏樹はあまり眠るのが好きではない。
異世界にいた頃は、唯一の楽しみが睡眠だったが、周囲が敵しかいない状況でまともに寝られたことなどなく、常に眠かった。
地球に戻ってきて、ぐっすり眠った翌日は爽快だったが、怖かった。
目を開けたら異世界にいて、地球に戻ってきているのは夢の中だけではないかと思うと、寝付けない日もあった。
だが、魔法とは便利だ。強制的に意識を奪うこともできる。
ようやくこちらの世界が現実だとちゃんと認識できても、今度は夢の中で異世界での出来事がフラッシュバックするのだ。
大半は翌朝になると忘れていることが多いのだが、それでも異世界での記憶を思い出したことへの自覚はあり、とてつもない気持ち悪さを覚えている。
――正直に言って、由良夏樹は異世界の日々がトラウマになっていた。
しかし、今日はよく眠れそうな気がしていた。
小梅と銀子から「大好き」と言われ、夏樹も気持ちを伝えた。
こんな風に、誰かを想い、言葉を伝えるのは初めてだった。
心が温かい。
地球に戻ってこられてよかったと思う。
彼女たちがいてくれれば、もう終わった過去など気にならないはずだ。
「……それにしても、仕事が早いなぁ」
さまたんの最新動画は、新しいメンバーの紹介だった。
言うまでもなくマモンだ。
グレーのスーツを着こなし、ちょっと悪そうな三十代半ばのイケメンが、口を開けばまもんまもん言っているのだ。
他の動画の再生数は大したことないのに、この動画だけ一万再生に届きそうだった。
コメント欄も「まもんまもん」になっている。
「かずたんもコメントしてるー! めっちゃくちゃまもんまもんってコメントしてるー!」
気のせいだと思いたいが、『太陽神』なるアカウントもコメントを残しているのだが、見なかったことにする。
「それにしても、少し安心したかな」
目の前で兄を失った一登を心配していたので、こうして動画にコメントを残せているのを見て少しだけホッとしている。
だが、明日には警察から連絡が来て、家族に優斗の死が伝わるのだ。
その時、一登が何を思うのか。
優斗は夏樹だけではなく、ついでだと言わんばかりに一登まで殺そうとした。自爆という名の失敗に終わったが、躊躇いのなかった優斗は許されない。
だが、大袈裟に心配はしていない。
天照大神が一登を放っておかないだろうし、サマエルも気を遣ってくれるはずだ。
幼少期からの友人である夏樹だからこそ、吐き出せない気持ちもあるだろうし、その面では感謝している。
一登のことを想い少し気を抜くと、眠気がうっすら漂ってきた。
そのまま睡魔に身を任せようとすると、スマホが鳴った。
手に持っていたのでついスマホを開いてみると、
『夜分遅くに申し訳ございません。明日あたり暇でしたら、お会いしませんか? ―――みんなのゴッド』
連絡先を教えていないはずなのに、突然のゴッドからのメッセージが送られてきたことに、夏樹の脳は一瞬で覚醒し、
「ほんげぇええええええええええええええええええええええええええ!」
よくわからない奇声を発した。
数十秒後、「なんじゃ襲撃か!?」と小梅たちが部屋に雪崩れ込んできたのは言うまでもない。