作品タイトル不明
76「他の奴らも見てるんじゃね?」
「こりゃまいった。強い強いとは思っていたが、まさかマモンを倒せるほど強かったとは思わなかったな」
人間界のとあるマンションの一室で、リビングでくつろぎながら魔王サタンは、自分の息子であり魔族の幹部傲慢を司るルシフェルと会話をしていた。
「……素晴らしい実力です。あれで全力でないなら、正直怖くありますね」
「全力が出せたのなら、お前でも勝てないだろうな」
「……私にも意地があるので簡単には負けないと言わせてもらいましょう」
「本来なら、危険視するに十分すぎる力だが、夏樹の性格からして喧嘩を売るようなことはしないだろう。小梅ちゃんとも親しいし、まあ、俺は戦わずに済みそうだ」
「よかったですね」
「まったくだ。小梅ちゃんのボーイフレンドを、春子さんの息子を殺さずにすむ。……ぶっちゃけ、俺も戦ったらただじゃ済まないだろうから、ホッとしているっていうのが正直なところだ」
サタンたちは、マモンの結界内での出来事を全て見ていた。
今までの力が三割しか出ていなかったと聞いた時には親子で絶句したが、五割の力を見たときには顎が外れるくらい驚いた。
――少なくとも、五割の力を解放した夏樹は高位魔族に匹敵していた。
高位魔族とは、魔族の幹部とは別に、神話や逸話に名を残している強い魔族たちを指す。
その中でも群を抜いて強いのが七つの大罪を司る魔族や、サマエルのような魔族だ。
それでも、単純に強い魔族は多い。マモンだって、決して弱くはない。
七つの大罪の中では力は少し劣っているが、高位魔族として十分すぎる力は持っているのだ。
「こりゃ、しばらく話題になるだろうな」
「そうですね」
夏樹たちの戦いを見ていたのは、サタンたちだけではない。
サマエルが戦いに気づき駆けつけたように、ゴッドが介入したように、他の神々や魔族も見ていたのだ。
「雷系の奴らは興味を持つだろうな」
「北欧の戦闘馬鹿どもの興味も引いたでしょう」
「さあ、大変だぞ」
サタンは他人ごとのように笑った。
「だが、感謝している。夏樹のおかげで、小梅ちゃんの婚約者の他候補はみんな辞退したらしい。なさけねえ。アルフォンスのように殺されかける危険があるのは怖いし、マモンのようにぶった斬られるのはもっと怖いそうだ」
「おかげで小梅は自由です。ま、まあ、婚期的には気にした方がいいんでしょうが、夏樹に任せましょう」
「くくく、くはははははは!」
サタンは大笑いする。
楽しくてしょうがない、嬉しくてしょうがないようだ。
「なにをそんなに面白いのですか?」
「わからないのか?」
「わかりません」
「小梅ちゃんと夏樹がくっつけば……俺と春子さんは家族だ!」
「うわぁ」
サタンらしく自分のことしか考えていないが、魔王のくせに割と小さな野望が叶うと喜んでいる姿を見て、ルシフェルは大きくため息を吐くのだった。