作品タイトル不明
75「蓮たちの今後じゃね?」②
「おっと、すまねえな。水無月家よ、顔を上げてくれ。いつまでも頭を下げさせていてすまんすまん」
伊邪那岐命に言われ、水無月茅をはじめ水無月家の面々が顔を上げた。
茶色いスーツにハンチング帽を被った老人が、伊邪那岐命と結び付かなかったのか若干の困惑気味だ。
天照大神のように着古した上下スウェットに比べたら天と地の差だろうが、違和感がないわけではない。
「お初にお目にかかります。水無月家当主の水無月茅と申します」
「おう。伊邪那岐命だ。土地神みずちに関してはすまなかったな。俺たち古い神々は人間とあまり関わらずこっそり生きている。それゆえに、力になれなかった」
「いえ、謝罪など」
「いいや、土地神みずちの件もそうだが、娘も押しつけちまったからな。後日、詫びの品を送らせてもらう」
「…………はい」
ちなみに、天照大神は腹部のたるみを抑えていた布が切れるというアクシデントを一登の前で披露してしまい、現在ショックで引きこもり中だった。
「俺の口で言うべきだと思ったから、直接言わせてもらう。――土地神みずちの魂は俺がこの手で回収した。丁寧に浄化し、力を与え、いずれどこかに新たな命として転生することを約束しよう」
「――っ、ありがとう、ございます!」
茅は涙を流し、頭を下げた。
無理もない。心から愛した相手のことなのだから。
茅だけではない。みずちと血のつながった娘である澪も、みずちを崇めていた都、雲海、星雲たちも、長年自分達を守ってくれていたみずちが救われたことに心から感謝して頭を下げていた。
「だから顔を上げてくれっての。何かあれば、また連絡するぜ。そっちも用があれば、いつでも頼ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
よし、と頷いた伊邪那岐命は、銀子にウインクする。
「銀子ちゃん、またご飯食べに来な。ババァも会いたがっているからよ」
「おっす! よろこんで!」
銀子にフランクに挨拶すると、次は小梅に視線を移した。
「小梅の嬢ちゃんも達者でな。あんまりサタンに心配かけるんじゃねえぞ」
「……クソ親父は知らん!」
「ははははは! ほどほどにな!」
続いて、夏樹の肩を叩く。
「いろいろ巻き込まれて大変だが、それ以上に良い出会いがあったはずだ。にいちゃんの人生はこれからだから、もっと楽しんどけ」
「そうします」
「おう」
そして、伊邪那岐命は一登の前に立つと、深々と腰を折った。
「ちょ、あの!?」
「娘が迷惑をかけるかも知れねえが、嫌わずに仲良くしてやってください」
「顔を上げてください。照子さんとは、じゃなかった、天照大神様とは仲良くさせていただいているので、こちらこそ、よろしくお願いします!」
「……そう言ってもらえると助かる。お兄さんの件は残念だったが、サマエルが肉体を修復してくれたようだから、ご両親が受け入れやすいように、気持ちの安定のための術をかけておいてやる。もちろん、支配とかではなく、リラックス効果を与えるくらいだ。それだけしかしてやれなくて申し訳ない」
「……気を遣ってくれてありがとうございます」
娘のために念入りに挨拶をする伊邪那岐命。
おそらく天照大神が一登に懸想しているのを知っているのだろう。
全員に挨拶した伊邪那岐命は、「ではな」と言い姿を消していく。
「そうだ、にいちゃん。マモンや蓮のことで話が進んだらまた会いにいくからな」
「わかりました! また!」
「おう!」
そう言い残して伊邪那岐命は消えた。
ふーっ、夏樹を含めみんなが気を抜く。
「よし! なっげー、イベントが終わったぞー! もう学校行かないで、どっかで飯食って家帰ろー!」
「おおー!」
とても長い月曜日の午前中がようやく終わろうとしていた。