作品タイトル不明
74「蓮たちの今後じゃね?」①
その後、ルシフェルから転送魔法で送られてきた魔封じの腕輪をマモンに嵌め、彼は魔力の大半を封じられることとなった。
とはいえ、人間を超えた力を持っていることは変わらない。しかし、夏樹に再び何かしようとしても、力を封じられている状態では手も足も出ないだろう。なによりも、サマエルの監視下に置かれることが決まっているので、マモンもサマエルに迷惑をかけるようなことはしないはずだ。
蓮は、伊邪那岐命の預かりになることが決まった。
仮に水無月家に思うことがあったとしても、さすがに日本神話のゴッドファーザーに物申せないだろう。
蓮としては、マモンと一緒に青森に行きたかったようだが、まずは伊邪那岐命と会い、保護下に置かれる話と、蓮が保護している子供たちのこと、そして彼らのこれからのことが話し合われるという。
その後、マモンと会うことを許してもらえるようだ。
蓮とマモンに、十五分ほどだがふたりで話す時間をあげると、サマエルに連れられてマモンは青森へ向かった。
息子のように思っていた蓮と離れることが寂しかったのだろう。もしくは、農業系動画配信者さまたんの登録者を一〇〇万人にしなければいけない果ての見えない試練が待っているせいか、マモンは最後まで「まもんまもん」と泣いていた。
サマエルはサマエルで、蓮に「いずれ青森で一緒に暮らせる日を楽しみにしている」と告げ、一登に熱い抱擁を交わすと、身体中から謎の光を出す天照大神に「さっさと帰ってください!」と言われ去っていった。
そして、水無月家の玄関の前に、
「よう、久しぶりだな!」
天使のアルフォンス・ミカエルと、
「よう、にいちゃん。久しいな」
那岐爺こと伊邪那岐命が揃って立っていた。
ビッグネームの登場に、水無月家の面々が平伏したのは言うまでもないだろう。
「久しぶり、アルフォンスさん。それと、那岐爺!」
「おう!」
「……俺の正体を知っても物怖じしないのは好ましいぜ、にいちゃん」
軽く手を上げて、アルフォンスと伊邪那岐命に挨拶をすると、苦笑されてしまった。
顔を上げることができない水無月家の面々はさておき、お茶請けで出されていた煎餅を今もバリバリ食べている銀子もなかなか神経が図太い。
「小梅の嬢ちゃんも……久しぶりだな。だいぶ雰囲気が変わっちまったが、今が楽しいならそれでいいだろうな」
「……お久しぶりです、お爺さま」
小梅も、さすがに伊邪那岐命を相手には頭を下げて、丁寧な言葉遣いをした。
隣に立つ銀子が「小梅さんが、敬語、だと?」とびっくりしている。
「畏まらなくてもいいぜ。銀子ちゃんも久しぶりだな。まさか天照大神の親友とこうして正体を明かして会うことになるとは思わなかったぜ」
「いやー、自分も驚きの連続でもう感覚が麻痺しちゃいましたねー! おじさんの正体も驚いたと言いますか、もう驚き疲れたと言いますか、お腹いっぱいっす」
「ははははははは! 銀子ちゃんは変わんねえなぁ!」
誰よりもフレンドリーに伊邪那岐命に挨拶をした銀子だが、水無月家が無礼ではないかと恐れて小刻みに震え出した。
「んで、そっちの坊主が小林蓮か」
「……はい」
「おうおう。随分といい感じの力を持っているじゃねえか。これじゃあ、よわっちいアルフォンスがぶっ飛ばされるのもわかるぜ」
「ふん! 俺は本気じゃありませんでしたから! 食材を守っていたので!」
「言い訳すんなよ。ま、坊主はとりあえず、俺と一緒に暮らしてもらうぜ。ああ、俺は神だが崇めなくていいし、気を遣わなくていい。むしろ、坊主には恨まれても仕方がない存在だからな。適当に、してくれや」
「…………」
伊邪那岐命は蓮になにか思うことがあるのだろう。気を遣っている雰囲気がある。
「マモンの小僧のところに行きたいのはわかるが、しばらく坊主の保護していた子供たちがウチに慣れるまでは我慢してくれや。お兄ちゃんがいきなりいなくなったら、子供たちも不安になっちまうだろうからな」
「……はい。あの子たちを受け入れてくれて、どうもありがとうございます」
「礼なんていいってことよ。こうして後手に回っちまうことが申し訳ないんだ。そうだな、礼を言うのは、坊主や子供たちが幸せになってからにしてくれや」
蓮は伊邪那岐命に深く頭を下げた。
すると、アルフォンスが蓮の前に立つ。
「よう。久しぶりだな」
「……はい」
「お前は、俺がこの街の商店街で開く食堂とお料理教室でアルバイトをしてもらう。とりあえず、まっとうに金を稼ぐ方法を教えてやる。ついでに、料理や、家事もだ。覚えておいて損はないぞ」
「え?」
蓮は目を見開いた。
てっきりアルフォンスに恨み言や罵声でも浴びせられると思っていたのだろう。
「俺は死んでないからな。夏樹のおかげでもあるが、とりあえず気にすんなって言ってやる。ただし、こき使ってやるからな、覚悟しろ!」
にぃっと笑うアルフォンスに、蓮は泣きそうな顔をして深々と頭を下げた。
「どうもありがとうございます! よろしく、お願いします!」
「おうよ! よし、とりあえず子供たちのところへ案内してくれ。迎えに行くぞ!」
翼を広げたアルフォンスが、蓮の肩を抱く。
飛び立とうとした蓮に、夏樹が声をかけた。
「――小林蓮」
蓮は夏樹を見た。
夏樹は軽く手を振ると、笑った。
「今度、一緒に遊ぼうぜ。飯食って、釣りして、楽しいことしような!」
「俺も一緒にね!」
夏樹と一緒に一登も手を振った。
驚いた顔をした蓮だったが、彼も笑顔を浮かべ「うん!」と返事をしてくれた。
そして、アルフォンスと共に飛び立っていった。