作品タイトル不明
間話「天照大神様が見てるんじゃね?」
夏樹たちがマモンの空間に呑み込まれたとき、風呂で贅肉を雲海老人に掴まれていた天照大神は、
「――っ、まさかそんなことが!?」
容易く空間内を――正確に言うと一登を――見ていたのだが、恐ろしいことが起きたと身震いする。
「天照大神様? なにかございましたか?」
「由良夏樹君と三原一登きゅんと銀子ちゃんと小梅さんが、魔族によって擬似空間に取り込まれてしまいました」
「それは、なんと!」
「しかし、自分は助けにはいけません。神として、いいえ、神だからこそ、いくら相手が魔族だからといって介入はできないんです」
「わかりました。ならば、この雲海! 恩人である夏樹殿と、天照大神様のマイスイートハニーである三原一登様のために力を奮いましょうぞ!」
「――っ、おばあちゃん!」
神としての在り方を酌んだ雲海に、天照大神が感動する。
「でも、おばあちゃんの力は……」
「お気づきでしたか。せめてあと五歳若ければ……」
「いいでしょう! 本来ならだめですが、他ならぬ一登きゅんのためです! それに、自分はおばあちゃんを気に入ってしまいました!」
天照大神はそう言うと、雲海の額に手を当て神気を少し流し込んだ。
刹那、雲海の霊力が倍以上となる。
「こ、これは!?」
「限定的ではありますが、おばあちゃんを五歳若返らせました。少しの加護です」
「――っ、まさか天照大神様から加護をいただける日が来ようとは! この雲海、感激でございます! 五歳も若返らせていただき、まるで美少女に戻った気分です!」
「……いえ、美少女かどうかはさておき、少女ではないです。はい」
「お任せください。この雲海、恩人たちのためにこのお力を奮いましょう!」
やや興奮気味に風呂から出ていく雲海を見送った天照大神は、周囲に誰もいないことを念入りに確認してからそっと自身の腹を指で摘んだ。
「――嗚呼、神よ」
神が神に嘆く愉快な光景だが、残念ながら見ている者はひとりとしていない。
「カップ麺、冷凍食品、スナック菓子に、酒のつまみ。少し気をつける前には、チューハイやジュースをガブガブ飲んでいたことは認めましょう……しかし、神が太るほど飲み食いしましたか!?」
もちろん、返事をしてくれる人も神も魔族もいない。
「駄目です。本来なら、自分が颯爽と現れて一登きゅんを助け、お姫様抱っこしてそのまま市役所で婚姻届――だったのに、贅肉が憎い! 不摂生をし続けた、自分が憎い! ママの言うことをちゃんと聞いておけばよかった!」
何百年と引きこもっていた天照大神が久しぶり外に、しかも誰かのために外に出ようとしたのだが、贅肉が大きな障害となって立ち塞がってしまった。
「……仕方がありません。ここからこっそりと見守りましょう。本当は駄目なんですけどね。月読に知られたら、ゴミを見るような目で見られるんでしょうけど、さすがにマジで一登きゅんたちがピンチになったら助けに行かなければならないですし」
言い訳を重ねてしばらく見守っていた天照大神だったが、サマエルの登場に愕然とした。
「なん、だと? なにそれ。なんですか、その農業系動画配信者さまたんって……なんで一登きゅんはそんなマイナーな動画配信者を応援しているんですか!? あ、でもなんか前に言っていたかも! あの時、調べていれば! ……まさかとは思いますけど、一登くん、他にも神や魔族に知り合いいませんよね? 小梅さんみたいな外国のすらりとしたクソ美人の人外さんとか知り合いにいないですよね!?」
異世界から帰還した夏樹の力も怖いが、一登の無自覚な交友関係も怖い。
天照大神は、「お願いですから、女神関連の知り合いがいませんように!」と、とりあえず父と母に祈るのだった。