作品タイトル不明
68「水無月家の方々じゃね?」
異変に気づいて来てくれたのは雲海だけではなかった。
「悪いけど、大人しくしてほしい」
「少しでもおかしな真似をすれば、いいえ、お姉さまに歯向かえば、それ相応の罰が降ると覚悟しなさい!」
百を超える氷の鶴を生み出し、マモン、蓮、サマエルを囲う水無月澪。
姉を守るように刀を構える水無月都もいる。
「お前さんたちが高位魔族だというのはわかるが、恩人方に無礼をしたなら、水無月家は命を賭してでも戦わんとな」
澪の氷の鶴の合間に、星雲相談役が符を百枚以上浮かべている。
そのひとつひとつに、攻撃性の高い霊力が込められている。
人間と魔族の力に大きな差があるとしても、これだけの数を食らえばいくらマモンたちでもそれなりに痛手は負うだろう。
そして、バイクを唸らせる雲海がなにかを唱えると、バイクは意志を持つように車体をくねらせて車輪を持つ怪物へと変化した。
他にも姿こそ現していないが、竹藪の奥、上空、水無月家本家からも力や、視線が集まっているのがわかる。
「……俺は強欲な魔族だが、うっかりさんな魔族でもある。少し焦っていたようだ。水無月家の目の届くところで、仕掛けたのは失敗だったな。まもんまもん」
「なんですか! そのふざけた語尾は! 人間だからって舐めているんですか!」
マモンの語尾に反応した都が、唾を飛ばして激昂する。おそらく馬鹿にされたと思ったのだろう。さすがに「まもんまもん」をマモンが普段から多用しているとは思いもしないはずだ。
「……ふざけた語尾……まもんまもん」
肩を落とすマモンを庇うように蓮が手を広げた。
「僕たちに戦う意志はない!」
蓮に続き、サマエルも両手をあげた。
「この子が言ったように、私たちに君たちと戦う気はない」
「だけど、お前さんたちは夏樹殿たちを襲ったようだが?」
「もう敗北し、降伏した。だが、私たちに警戒するのはわかる。望むなら、拘束されよう」
水無月家の主戦力と思われる面々が現れたことで、驚いていた夏樹だが、このままサマエルたちばかりに話をさせていても、水無月家の警戒が解けないと気づき慌てて間に入った。
「この人たちが言っているのは本当です! 襲われはしましたが、決着はついています。心配してくださりありがとうございます! でも、大丈夫です! とにかく、戦うことだけは、なしでお願いします!」
サマエルたちも抵抗はしないだろうが、水無月家の面々が勝てる相手ではない。
夏樹たちの危機にかけつけてくれたことは嬉しい。嬉しいからこそ、万が一のことが起きてしまうのは望まない。
「……夏樹殿がそう言うなら、こちらも矛は収めましょう。澪、都、警戒は解くなよ」
「うん」
「はい!」
「あと、雲海はいつまでもバイク吹かしているんじゃねえよ!」
「現役に匹敵する力を取り戻したせいか、こう昂揚感が……このままどこまでも走って行けそうだ!」
ぶおんぶおん、とバイクを空吹かしする都度、車体に浮かぶ人面が苦しそうにするのがとても気になるが、ちょっと怖かったので気づかないふりをしてそっと視線を外す。
「さて、どうしようかな。俺は、マモンと小林くんと話がしたいんだけど」
「……では、水無月家を使うといい。当主もなにかあれば連れてくるように言ってくれているんでな。天照大神様がいらっしゃるのであまり粗相はないように頼む」
星雲相談役の申し出を受け、夏樹は一同に視線を送る。
小梅たちはもちろんのこと、サマエルたちも了承した。
こうして一同は、水無月家の一室を借りて話をすることとなった。