作品タイトル不明
67「戻ってきたんじゃね?」
「……とりあえず、帰ろっか。おーい、この空間から出してくれない?」
愛の女神こと愛ちゃんが消えてしまい、夏樹たちとマモンたちが残されたが、もう戦うつもりはないため、いつまでもここにいても仕方がない。
夏樹が声をかけると、マモンが頷いた。
「……敗者は勝者に従おう。しかし、俺が尋ねることではないが、爆ぜた少年はどうするのだ?」
「あー。どうしよう。ちなみにこの世界が消えるとどうなるの?」
「この空間はあくまでも擬似空間だ。消えることは消滅である。つまり、爆ぜてしまった少年も消えてしまうだろう。まもんまもん」
「そっか。どうしよう?」
小梅たちを窺うと、彼女は「さあ?」という顔をする。小梅と銀子は優斗に思い入れもなにもないのだから無理もない。
しかし、一登の場合は家族であり弟だ。迷惑ばかりかけられた兄であっても、思うことはあるのではないかと反応を待つ。
「……俺的には連れて帰ってあげたいけど……こんな原型留めていない状態でどうしろっていうの!?」
「ですよねー」
一登の叫びに、誰もが納得する。臓器や肉片こそ散らばって残っているが、基本的に回収不可能だ。なによりもゴッドの力で生い茂った草花のせいで探すのも一苦労だろう。
――ふふふふ。私の出番で――
「よければ、私がなんとかしよう」
「さまたん……あ、違った、サマエルさん」
(あれ? 今なんか変な女の声が聞こえたような気がしたんだけど)
夏樹は全く知らないが、サマエルは動画配信者さまたんであり、一登は数少ない視聴者であるらしい。
霊能事情を知らない一登が、まさか天照大神と知り合いだったり、サマエルの動画を見ていたりと世の中狭すぎる。
(なーんか、他にも知らないところで大物と一登が知り合っていそうな気がしてならないけど……そんなことないよね?)
「さまたんで構わない。私の数少ない視聴者だ。……確か一登と名を呼ばれていたが、まさかかずたんかな?」
「覚えていてくれて嬉しいです!」
「――っ、君がかずたんか! 動画配信を始めてからずっと見てくれている子じゃないか! こんなところで出会うとは……少し嬉しく思ってしまうよ。おっと、すまない。兄が亡くなったのに、不謹慎だったね。申し訳ない」
「いえ、いいんです。兄貴の自業自得ですから。それで、なんとかなるんですか?」
「ああ。今でこそ底辺動画配信者だが、かつては……褒められることではないが、悪さをしていたのでね。遺体の偽装くらいはなんとかできる。そこの、霊能力者。院関係だろう? そちらでも、何かしら手段はあると思われるが、どうする?」
サマエルが銀子に声をかけた。
あくまでも手段がなければ力を貸してくれるのだろう。
「そうっすね。原型があるなら、事故とかにしちゃうんですけど、今回は難しいっすね。死んだことを伝えるのも由としないケースもあるので、失踪とか、駆け落ちとかにしてしまう場合もあるっすけど。どうしましょうか?」
「両親も兄の死を受け入れると思います。死んで欲しかったわけじゃないですけど、これ以上迷惑かけられなくていいってほっとするかもしれませんし。失踪扱いだと、いつどこで何をしているのかわからないっていうのも、しこりになると思うんです。なによりも、兄貴は夏樹くんだけじゃ飽き足らず俺や両親を殺すって言いましたし、自業自得なんですけど……死んじゃったんなら、弔ってあげたいんです」
一登の言葉に、方針が決まった。
「承知した。では、私が仮そめだが、肉体の外側をなんとかしよう」
「じゃあ、私がお父さんと相談して、事故としますね」
サマエルの力と、銀子のおかげで、優斗は家族の下に戻れることになった。
愛の女神に唆されたのか、それとも自分の意思だったのか不明だが、夏樹は自分だけではなく友人と家族を害そうとした優斗に思うことはない。
肉親の情もなく、口にこそしないが、死んでくれてせいせいしている。
ただ、腐れ縁ではあったことも確かなので、せめて死後は静かに眠っていて欲しいと黙祷した。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
優斗の血溜まりに黙祷していた夏樹が、銀子の叫びで目を開ける。
「どうしたの、銀子さん!?」
まさかまた敵が現れたのかと思い、駆け寄ると、車の前で呆然と膝をつく銀子がいる。
彼女は力なく車内に向かって指を向けた。
彼女の指差す方向に目を向けると、夏樹は苦い顔をしてしまう。
「あー」
車内は、これでもかと蔦が生えており、しかも、優斗の血液や臓物が飛んできたのだろう。真っ赤に染まっていた。
「こんな状態で持って帰ったら、お母さんにぶっ殺されちゃうんですけど!?」
「マモンさーん! 車の修理代払ってくださいねー!」
「ま、まもんまもん。俺は強欲な魔族だが、責任をちゃんと取る潔い魔族でもある。新車で車を買ってやろう!」
「いえ、お母さんの車は元に戻してくれればいいんで。あ、でも、私には新車買ってください。できれば、外車で! ドイツ製がいいなー!」
「……常々思っていたが、人間は魔族よりも強欲だな。まもんまもん」
マモンは困惑気味にしながら、夏樹たちを捕らえていた空間を解除する。
淡い光が世界に広がり、次の瞬間、水無月家から街へ続く竹藪に戻っていた。
「おお! 戻ってきたー! いろいろありすぎたけど、まだこれが月曜日の午前中の出来事なのが信じられねー! 密度が高いんだよ!」
元居た場所に戻ってきた夏樹はスマホで時間を確認すると、まだ午前十一時だ。
「まさかとは思うけど、午後もイベントじゃないよね!?」
「はははは、夏樹くんったら。そんなことないじゃない。ない、よね?」
巻き込まれた一登も土曜、日曜、月曜のイベント量を思い出し、いくら度量が深くとも顔色を青くするのだった。
ふたりで乾いた笑いを浮かべていると、遠くからバイクが唸る音が聞こえる。
「え?」
夏樹と一登が顔を見合わせると、竹藪を突っ切ってレーサーレプリカに着物で跨った雲海が現れた。
「夏樹殿! 一登殿! 助太刀いたす! なに、心配はいらぬ! 天照大神様より、一時的に五歳若返らせていただきましたゆえ!」
「無茶すんなよ、おばあちゃん!」