作品タイトル不明
66「優斗と決着をつけるんじゃね?」②
「えぇええええええええええええええええええええええええええええ!?」
水道で勢いよく水を注いでしまった水風船のように、大きく膨れ上がって内側から爆ぜてしまった優斗に、夏樹が叫んだ。
まさか自爆するとは思わなかったのだ。
夏樹はもちろんだが、小梅と銀子も唖然としている。
静観を決めていたマモン、蓮、サマエルですら口をあんぐり開けている。
一番ひどいのは、優斗の傍にいた愛の女神だ。
彼女は、まるでB級映画の登場人物のごとく、優斗の血と臓物を浴びて真っ赤になっている。
悲しみなのか、それとも怒りなのか、プルプル震えているのはきっと気のせいではないだろう。
「……あの、なんていうか、ハンカチ使う?」
「これ、ハンカチでなんとかなると思う?」
「全然」
「……でしょうね。まあいいわ。あんな雑魚に期待なんてしていなかったもの。元々間違えて力を上げたんだけど、最後まで面倒見なきゃって思って力を上げたんだけど、身も心もあそこも矮小な人間には女神の力は耐えられなかったみたいねぇ」
「せめて前の力を回収してから新しい力をあげればよかったのに」
「あんたが馬鹿みたいに頑丈な封印をするから私でも解けなかったのよ!」
「そりゃ失礼。次は、あんな馬鹿に不用意に力を与えないように気をつけるんだね」
「……そうする。で、さ。シャワーを浴びたいから帰っていい?」
「いや、こっちはそもそも呼んでないんですけど。ね?」
小梅と銀子に視線を向けると、ふたりは頷いた。
「ええ、まあ、そうっすね。ところで愛の女神ってどちらの愛の女神っすか?」
「お呼びじゃないんじゃボケェ! せっかく面倒ごとが終わったのに、こんなにくだらん強制イベントさせよって! つーか、あんなクズでも家族を失った一登にごめんなさいくらい言えんのかぁ! 天照大神呼ぶぞぉ、くぉら!」
小梅の叫びに、愛ちゃんは気まずそうな顔をした。
彼女にとっても優斗のこのような死に方は想定外だったのだから無理もない。
「ごめんね、一登くん」
「えっと……クソ兄貴って本当に死んじゃったの?」
まだ兄の死が信じられない一登が愛ちゃんに尋ねると、彼女は肩に引っかかっていた腸を手に取ると、一登に差し出した。
「えーっと、よかったら形見にどうぞ?」
「いらないです。それよりも、兄貴が力を手にしたのはわかりましたけど、本気で夏樹くんや俺と家族を殺す気だったんですか?」
「うん。夏樹くんは殺せーってけしかけてみたけど、一登くんやご両親、そして遊んでいた女の子たちを殺そうって決めたのは、あのクズだよ。一応、止めるつもりだったけどね。うわぁ。べとべとぉ」
「そうですか。最期まで本当に、最悪なクソ兄貴でした」
一登が俯いてしまった。
泣いているのか、それとも憤っているのか、夏樹たちにはわからない。わざわざ彼がどんな顔をしているのか探る趣味もない。
「で、あんたは優斗を連れて何をしたかったんだ?」
「――君の力の調査だよー」
「なに?」
「いろいろこっちは計画立ててたのに、いきなり降って湧いた強力な力を持つ人間だからね。そりゃ調べるでしょ? クズは役立たずだったけど、マモンと蓮くんが十分に役目を果たしてくれたから、別にいいんだけどねー」
「クズにクズって言うな!」
「……私もだけど、君も大概だよね」
「屑と屑が屑している異世界人よりもマシだよ!」
愛の女神は笑う。
子供のように、大人のように、無邪気に、妖艶に。
「私のことはマモンに聞くといいよ」
「待て」
この場から去ろうとした愛の女神を止めたのは、鋭い目つきをしたサマエルだった。
「あーら、どうしたの、さまたん?」
「私のかわいい舎弟を利用したのだ、それなりの償いをしてもらうか」
「あら怖い。サタンとガチで喧嘩できる魔族に睨まれたら……怖くて怖くて、マモンや蓮くんを狙って攻撃しそう!」
「……死にたければやってみろ。お前と私のどちらが速いか確かめてみてもいいのだぞ」
サマエルの魔力が吹き荒れ、殺意が愛の女神を襲う。
殺気を向けられていないのに夏樹たちの息が止まりそうになるほど、サマエルの怒りという感情で昂った魔力の余波は凄まじかった。
これで本格的に力を使ったら、どれほど強いのか夏樹には想像できない。
「うーん。じゃあ、女神としては絶対にやっちゃいけないんだけど、目的のための大義ということで、適当に誰かを殺しちゃおうかな」
「なんだと?」
「いい? 私を殺し損ねたら、私はその憂さ晴らしに適当に誰かを殺す。わかる? お前のせいで、私が愛する人が死ぬんだ。それでいいのね?」
「……底が浅いな。その程度で、神を名乗るのか」
「だって、神だもん。私なんて、みんなを愛しているから大事にしているけど、中には魔族も神族も、人間も害虫くらいにしか思っていない奴らもいるんだからね。さまたんは、これから私たち新たな神々と戦うってことでオーケー?」
愛の女神が感情のこもらない声に、サマエルは力を止めた。
「物分かりがよくてなによりかなー」
「……私は現役を退いた、底辺動画配信者だ。お前たちを殺して回るほど暇ではない」
「それでいいと思うよー。さまたんより強い神も魔もこっちにいるからねー」
「ふん。私の気が変わらないうちに消えろ」
「はいはい。じゃーねー、夏樹くん、一登くん、今度は勧誘に来るからねー!」
血に塗れた愛の女神は、夏樹と一登に手を振りながら消えた。
残されたのは、あまりよくわかっていない夏樹たちと、なにやら事情を知っているであろうサマエルとマモン。
そして、優斗が作った血溜まりだった。