作品タイトル不明
65「優斗と決着をつけるんじゃね?」①
「うぇ……なーんであいつがここにいるかなぁ。しかも、力を厳重に封じてやったのに、なんか別の力持ってるし。うざいなぁ」
三原優斗が隣に幼い少女を連れて現れたので、夏樹たちはちょっと驚いた。
一登だけが、兄の登場に目を丸くしていて、一番驚いている。
夏樹としても、なぜここにいるのか、隣に連れている幼女は誰なのか、新しい力を手に入れたみたいだけど、その程度の力でそんなに殺意持って現れたのかな、と疑問はたくさんだ。
しかし、やはり夏樹には優斗は脅威でないし、疑問が浮かんでも別に知らなくてもいいようなことばかりなので、少しだけ湧いた興味がどんどん薄れていくのを感じる。
「愛ちゃんから聞いたぞ。選ばれた存在である僕の力を封じたみたいだな。夏樹のせいで僕は女の子たちから相手にされなくなったんだぞ! どいつもこいつも僕のことを馬鹿にして、挙句の果てに……僕の、僕のあれが……くそぉ!」
「愛ちゃんってだーれー?」
「はーい! 愛ちゃんでーす!」
優斗の傍にいた幼女が元気いっぱいに手を上げた。
「愛の女神してまーす! よろしくねー!」
「あー、どうもー! 由良夏樹です」
「ご丁寧にどうもねー。愛ちゃんでーす。一登くんも、小梅ちゃんも、銀子ちゃんもよろしくねー! まもんまもん!」
「――もしかしてマモンと関係ある?」
「あ、しまった! 一緒に行動していたから語尾が伝染っちゃってるのよ!」
明らかに苛立っている優斗に対して、愛の女神こと愛ちゃんや夏樹はのんびり会話していた。そして愛ちゃんの「まもんまもん」からマモンと繋がりがあるのが理解できる。
おそらくマモンが夏樹たちに仕掛けることを知っていて、いいところで優斗を送り込んできたのだろう。
(でもなぁ……ゴッドパワーのおかげで、俺たち全快しているんだよねぇ。そこに、こんな雑魚を送り込んで何ができるって言うのかな? まあいいや、優斗はもう殺そう)
今まで散々、見逃してきた。
何度迷惑をかけられても、巻き込まれて散々な目に遭っても、理不尽な恨みを買う羽目になっても、あまり優斗への興味が続かなかった。
しかし、異世界から帰還し、異世界人の醜さに辟易した夏樹にとっても、優斗は気持ち悪い。下手に力を持っているせいか、運も実力と言うのか、とにかく好き放題。まるで選ばれし者のような振る舞いだ。
夏樹は聖剣に選ばれし勇者だが、吐き気を催すようなイベント盛りだくさんだったのに、対して優斗は幸せそうだ。選ばれた者同士なのに、実に不公平である。
親友であり、幼馴染みであり、大切な弟分の兄であることを考慮して、今まで見逃してきたのが、今ここに新たな力を持って立っているということは――夏樹的にレッドカードだった。
「一登も夏樹の側だったようだな。あれだけ夏樹に関わるなって言ったのに、聞き分けのない奴だ。夏樹を殺すついでにお前も殺してやる。それだけだと寂しいだろうから、僕のことを馬鹿にする両親も殺して送ってやるから楽しみにしておくといいよ! あはははははは!」
「――クソ兄貴っ、正気かよ!」
「凡人が僕に気安く話しかけるな! 僕は愛の女神に選ばれ、愛された存在なんだぞ!」
「……愛されている?」
優斗には見えないようだが、愛ちゃんは思い切り首を左右に振って否定している。どうやら愛されてはいないようだ。
「ついでに、趣味じゃないけど、夏樹の女を可愛がってやるよ! 今までの女もみんなぐちゃぐちゃにしてやる!」
「……小梅ちゃんと銀子さんに手を出すって言うのなら、上半身と下半身と右半身と左半身がお別れすることになるから、さよならを言っておくといいよ」
「そうやってお前は僕をいつも馬鹿にするんだ!」
「冤罪ー!」
愛の女神からどのような力をもらったのか知らないが、夏樹が封じていた、優斗が元から持っていた力の方がまだ強い。
一登は戦う術がないし、銀子も実力を把握していないので不安だが、他の面々はおそらく優斗を脅威に感じないだろう。
しかし、余裕の笑みを浮かべる優斗と愛ちゃんを見ていると、他にもまだ力があるような気がする。
夏樹はあえて一登に視線を一切向けなかった。
殺すことを決意したことを一登に見抜かれたくなかったし、万が一、それを肯定されてしまうと、きっと彼は後で悔いるかもしれない。
いくら弟である一登と、両親を殺すと言ったとしても、本当にやるのかわからないのならば、一登に悩ませることさえしたくない。
夏樹の独断で、優斗が何もできないうちに殺してしまうのが一番だと思った。
「夏樹……お前はいつもそうやって飄々としているな。僕がみんなに好かれようと努力しているのに、お前の周りには勝手に人が集まってくる。お前の幼馴染みだから、ようやくみんなが僕を認識するんだ」
「なんてくだらないことを考えているんだか」
「はははははは! だけど、ほら、結果を見れば、夏樹の大切な人を、みんなの大切な人が俺に惚れて、簡単に股を開くんだ!」
「うわぁ、品のない奴。ていうか、俺の大切な人って……どなた?」
「え?」
「小梅ちゃんも、銀子さんも、一登も、ジャックも、ナンシーも、お母さんも、青山のおじさんも、みんな俺の家族として一緒にいてくれるけど、お前は誰のことを言っているの?」
「……え?」
「お前は俺の大切な人たちを奪えていないよ。勝手にそう思って気持ちよくなっていただけだね。お疲れー!」
「夏樹ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
激昂した優斗の感情に引っ張られていくように、彼の霊力が爆発的に上がっていく。
「へえ」
「僕の力でぶっ殺してやる!」
「かかってきやがれ! 俺のアルティメットウルトラサンダーデンジャラスクレイジーレモンマモンシオコショウヤサイマシマシドラグーンファイバーミネラルナトリウム勇者スラッシュでぶった斬ってやるよ!」
「ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
銀子の霊力を超え、水無月家に祀られていたみずちをも超える霊力が優斗から解き放たれていく。
「おおっ、すごいな。人間辞めちゃった? しかもまだまだ上がるし、でもさ、あの、ちょっと余計なことだけど、そんなに意味もなく力だけを馬鹿みたいに上げると……」
「黙れ! 見ろ、これが僕の力だ! わかるだろう? 僕は愛の女神に愛された勇者だ! 夏樹! 初めて使う僕の力で殺されることを光栄に思え! そして、次は――」
――ぱぁんっ!
自慢げにこれでもかと力を上げ続けた優斗は――肉体が力に耐えられず、内側から爆ぜた。