作品タイトル不明
12「基礎が大事じゃね?」②
「……なるほどね、雑」
「おっと、言わせねえよ」
夏樹の口を千手が塞いだ。
生徒たちの走る姿を見て、何度か頷いた夏樹が何を言うのか察していたようだ。
「言いたいことはわかる。わかるんだが、お前のほうがおかしいってことを理解してくれ。いいか、いいな? 手を離すぞ?」
夏樹が頷き、千手がゆっくり手を口から外す。
「みんな異世界に行けば強くなるんじゃないの?」
「その異世界にまず行けないだろう!」
「……円ちゃん的にはどう?」
「せやね、僕もそれなりに鍛えられてきたからなぁ。やっていることは間違ってはいないんやろうけど、ぬるくはあるかなぁ」
「あー、そう言う感じなんだね」
「京都のトップの安倍家に比べたらそうだろうな!」
体力は大事だ。
異世界では、人間と魔族の戦いで一ヶ月戦場が続いたこともあった。
だが、夏樹は違う。
圧倒的な力で、時間をかけず、無慈悲に殺すのだ。
アマイモンを始め、素盞嗚尊、トールと全力で戦ったが、体力は大事だが、最後に物を言うのは――己の意志だ。
もしかすると、夏樹を恵まれていると言う人間はいるかもしれない。
地球では経験できないことを経て、力を得た。
しかし、夏樹からすると望んで異世界に行ったわけではなく、帰ってくるために必死だったから強くなっただけでしかない。
(――ああ、そうか。この人たちには、今、この瞬間死ぬかもしれないという感情がないんだ)
夏樹は、常に死と隣り合わせだった。
強くなっても変わらない。
死にものぐるいで、泣きながら戦ってきた。
比べるべきではないだろうが、この学校の生徒には「それ」がない。
「夏樹、どうしたんじゃ?」
「うーん、いや、なんでもない」
小梅に話しかけられ、思考を切った。
今、考えることではない。
笹川が、手を挙げて声をかけると生徒たちが足を止めて歩き始めた。
「私のクラスの生徒を紹介しましょう。休日も自主練習をしているいい子たちです」
「よろしくお願いします」
正直、汗を流して友人と笑い合う生徒を見ると眩しいと思う。
ただ、夏樹には「何かが違う」ように感じてしまった。
それが、少しだけ――。