作品タイトル不明
11「基礎が大事じゃね?」①
「それ」は笑顔を浮かべて生徒の中にいた。
「それ」は笑顔を浮かべて教師の中にいた。
生徒たちの中で、教師たちの中で、にこやに自然に振る舞い続ける。
ひとりの生徒が学校の実習で悪魔を無事に倒したことを自慢げに言った。だから「それ」は褒めた。心から褒めた。ゆっくりと、じわりと、彼の心に感情が滲みるように褒め称えた。
「それ」の言葉は自然で甘く、何よりも心地いい。
生徒は、「それ」の言葉に満足していた。
ある日、「それ」は生徒に言った。
「君ばかり大変でかわいそうだね」
その通りだと思った。
「それ」の言う通りだった。
生徒は、霊能力を持っているからという理由で幼い頃から厳しく育てられ、人々を守るように叩き込まれた。
なぜ弱い奴らを守るために、強者が傷つかなければならないのかと思うようになった。
それがきっかけだった。
小さな、それでいて確実に大きく育っていく、きっかけだった。
■
銀子を会議室に置いて、夏樹たちは校舎の中を歩いていた。
戦闘を笹山と月読が歩き、メインとなる夏樹と一登、円、都が続く。
その後ろを、「oh! Japanese high schooll!」と感激している小梅に、「校舎が違うと雰囲気も違うな」と千手。「寺子屋とはまた違うんだな」と学校像が古い虎童子、そしてあまり学校に興味がない星子と菜々子だった。
星子と菜々子は、向島市では春子が「学校に行かなくていいのかしら?」と案じたことで、近所の小学校に入学する手続きをしている。
戦い以外は暇であり、また戦いも余程の敵が出てこない限り出番がないため、学校に通ってみることもいいかもしれないと興味を抱いていたのだが、この学校にはあまり関心がないらしい。
おそらく、「霊能力者を育てる学校」に興味がないのだろう。
「霊能育成学校に関してですが、基本的に初等部、中等部からの繰り上がりを前提としたクラスと、外部から入学したクラスに分かれています」
「俺、わかります。外部入学の生徒が元々いる生徒を倒してドヤ顔をするんですよね!」
「……普通はしませんが、ここ数年で唯一したのが青山銀子さんです」
「さすが銀子さん、わかってるぅ」
「お手本のような生徒じゃのう」
夏樹がやろうと企んでいたことはすでに銀子が達成済みだった。
さすがだ、わかっている。
「……こうなったら俺だけしかできないことをしてこの学校に記録を」
「あのね、夏樹くん。別にそういうことしなくていいからね。下手すると死人が出るから」
「そやでなっちゃん。銀子さんは銀子さんで、なっちゃんはなっちゃんや。それに、なっちゃんが何かしようとしたら死人がでるやろ」
「一登も円ちゃんもひどい!」
実際問題として、もし夏樹が生徒に絡まれて戦うことになったとしよう。
異世界で拾った剣を軽く振って――生徒はバラバラになるだろう。
全員が全員ではないだろうが、神や魔族と戦える夏樹を相手にするのは生徒では荷が重すぎるのだ。
「興味深いですね。由良夏樹くんがどれほどの力を持っているのか、気になってしまいます。ですが、今は見学が最優先です」
笹山が先導し、体育館に着いた。
体育館の中に入ると同時に、夏樹たちにパリッとした痺れのような感覚が一瞬だけ襲った。
「説明すべきでした、すみません。体育館では実習もするので、頑丈にする呪いがされています。今のは、その呪いの中に入ったという感覚です」
「――頑丈。つまり、俺が全力でも」
「駄目ですよ、夏樹くん」
「まだ最後まで行っていないんですけど、月読先生」
「聞かなくてもわかります。静かに、おとなしく、見学をしましょう」
「はーい」
月読に嗜められた夏樹が体育館に入り、目にしたのは汗を流して走る生徒たちの姿だった。
「……反応に困る」
「霊能力者は身体が資本です。まずは体力、次に体力です。霊能力は生まれ持った才能に依存してしまいますが、身体も資質こそありますが本人次第で鍛えることは可能です。現場でに出ていざという時に力が出ないわけにはいきません」
「そっか。強化魔法というか、肉体強化をしないんですか?」
「できる生徒もいますが、肉体強化を継続する力を攻撃に使った方が良いと考えられています。何よりも、強化を維持するのは大変で、まだその段階ではありません」
「……うーん」
夏樹は困った。
本当に困った。
(――想像していたよりも、レベルが低い。これじゃあ、神や魔族と戦うことができないんじゃないかな?)