作品タイトル不明
5「勇者が結界に阻まれるわけなくね?」②
「本当に降ろされちゃった! あのねぇ、勇者がさ、結界に阻まれるわけがないでしょう? 俺だって結界張ることができるけど、外敵とか邪悪な存在とかそういうのを拒むのであって、善良を絵に描いたようななっちゃんが結界なんぞに――んごっ」
月読たちに置いて行かれた夏樹は、ひとりで歩いていた。
じっとしているようにと月読に言われた夏樹であるが、「結界? 余裕っしょ?」と考えて歩いて結界を通ってみんなにドヤ顔をしようと思ったのだ。
そして、独り言を言いながらお手本のように結界ぶつかった。
「鼻、鼻をモロに打っちゃったんですけど!」
「そなたは面白いのう」
「ああん?」
平坦な感情のこもらない声が背後から響き、振り返った。
「――――え? どちら様ですか?」
背後にいたのは少年だった。
年齢は十歳ほどだろうか。
ミルクチョコレートのような肌と、整いすぎた容姿は日本人の子供ではない。
(――新たな神々、ではないか。力を感じない。人かな。でも、人なら人でこんなところに子供がいるのはおかしいんだよね?)
「余は」
「余は!?」
「……何か問題があったか?」
「あー、いえ、自分のことを余という人初めて出会ったんです。しかも、ボーイ。義政大先生でも僕なのに」
「……ふむ」
「あ、いやいや、悪いって言うわけではなくて。全然オッケーです! 令和だもん! 個性は大事!」
「ならば、このままでよいか?」
「よいよい!」
「では、そうするとしよう」
どうも威厳があるというか、不思議と神聖な雰囲気を持つ少年だと思った。
誰とは言わないが、後光が眩しい偏りも、神々しい気がする。
(――っ、ギャラクシー名探偵河童なっちゃんにはわかっちゃった! この子は、学園の子だ! なんかすっげー力を持つ海外からの飛び級留学生で、この出会いがフラグになってイベントさんが大暴れるんだ!)
怖い。
自分の推理力が怖い。
「俺、将来探偵になろうかな」
「……いきなりそんなことを言われても、余は困るのだが」
「おっと、失礼。それで、ボーイはここでなにしているのかな?」
「ふらふらしている」
「ふらふらしている?」
「そうだ。余は、世界を見ている。人の営みを、歴史を見ている」
「それなら京都行きなよぉ。こんな地方都市の山の中には人の営みも歴史もないよぉ」
「京都か。日本のおすすめに載っていたが、あえて行かないのが余のスタイル」
「そこは素直に行きなよ。日本人が行っても感動と歴史があるんだから、行きなさいって」
「……ならば行こう。では、さっそく。思い立ったら行くのが京都であると学んでいる」
「うっす! お気をつけて!」
「うむ」
びしっ、と少年に向かって礼をした夏樹が顔を上げると、少年はいなかった。
「――あれ?」
間違いなく少年は人だった。
しかし、音もなく消えてしまった。
思い返せば、気配があったかどうかも思い出せない。
「――も、もしかしておばけ!? たぬき!? きつね!?」
少年が消えてしまったことに怯えた夏樹は、感情のままに拳を繰り出し学園を覆う結界を破壊した。