作品タイトル不明
60「サタンさんの圧、やべくね?」
――魔王サタン。
魔界の支配者であり、魔族たちの王。
絶対的な力を持つ、最強の魔族である。
柏原保は本能から震えた。
なにをしても勝てることはない、絶対的な強者がすぐ近くにいることに恐れていたのだ。
(……ありえないありえないありえないありえないこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい)
魔王サタンを調べなかったわけではない。
調べた。
むしろ、念入りに調べた。
由良夏樹以上に調べた。
そして、誤った。
保は、いや、「帝国」は最も警戒すべき者を「由良夏樹」「月読命」「花子・ルシファー」と定めた。
魔王サタンを外した理由は、彼が我々の戦いに微塵も興味がないからだ。
決定打だったのは、死の神が夏樹たちに敵対しても出てこなかったことだ。
由良夏樹は例外として、他の者は、それこそ娘の小梅が死ぬ可能性があったというのに、魔王サタンは最後まで出てこなかった。
もともと魔王サタンのことは調べていた。
由良家に来る前から、向島市に滞在していることは知っていた。
最初こそ、絶対的な敵であると考えていたが、そうではなかった。
魔王サタンは人が好きだ。
人の輪に入って笑うことの好きな、ただの魔族だった。
神々がそうであるように、魔族でも人間を好意的に思う者がいる。
魔王サタンもそうであると思っていた。
――全て、誤りだった。
「いやさ、お前たち「帝国」がずっと俺のことを調べていたことは知っているし、興味も何も抱けなかったから放置していたんだが、ごめんな。俺がお前たちに興味がなさすぎるせいで、勘違いしちゃったんだな?」
カチカチと歯が鳴る。
怖い、恐ろしい、逃げ出したい、死にたくない。
様々な感情が襲いかかってくる。
「初めに言っておくが、俺はお前さんに何かしようとは思わない。今、この場でこうして顔を見ても、まるで興味が持てない。安心しろ、俺はお前さんを殴ったり蹴ったりなんて酷いことはしないさ。だけどな、言っておかなきゃいけないこともあるんだ」
恐怖に支配されながら、一言一句聞き逃さないよう耳を傾ける。
「――邪魔だ」
魔王の言葉が、脳に直接届いたような気がした。
「お前さんたちの計画も、目的も、そしてお前さん自身の目的もどうでもいい。だが、邪魔だ。耳元で騒がれると、興味がなくとも煩わしい」
サタンが保の頭を掴み、無理やり目を合わせた。
恐怖を超えた、何かが襲いかかってくる。
気が狂いそうだった。
「お前さんのことは知っている。柏原保。強奪の勇者よ」
「―――――――っ」
「調べたわけじゃない、見ればわかる。わかるな?」
保は何度も首を振った。
「よしよしいい子だ。なに、俺も魔王だが慈悲がないわけじゃない。由良家の半径百メートル以内に入らなければ勘弁してやる。いいな? 声を出して、返事をしろ。いいな?」
「……………は……い」
「お前が話のわかる子でよかった。それじゃあ、俺は寝る。ほどほどにな」
「ちょ、サタンさん! 私のことは放置っすか!?」
「銀子、夜だっていうのにめっちゃ元気じゃん。そっちのお嬢ちゃんぼっこぼこだし」
「こっちもボッコボコですよ! サタンさんが出てきたせいでステファニーさんがビビって動かなくなっちゃったじゃないっすか! ついその隙に渾身の一撃を喰らわせちゃいましたっすよ!」
「……そこは拳を止めようよぉ」
「無理っす!」
顔を腫らした銀子が立ち上がると、動かなくなったステファニーを置いて、保を無視してビールとゴミを拾うとサタンと一緒に由良家の中に入っていた。
残されたのは、恐怖で動けない保と、散々殴られて動けないステファニーのふたりだった。