作品タイトル不明
61「三郎さんだってやばくね?」①
「――太一郎お父さん」
由良家の玄関を潜ろうとした時、背後から名を呼ばれサタンが振り返った。
「よう、三郎」
声の主は、ルシファー家次男の三郎だった。
気だるげな整った顔に眼鏡をかけ、スーツを着こなしている青年だった。
「仕事から帰ろうとしたら、久しぶりに太一郎お父さんの力を感じたから何かあったのかと思って寄ってみました」
「気を使わせて悪かった」
「いえ、太一郎お父さんに今更なにかできる相手はいないだろうけど、春子さんが心配になってしまって」
「……春子さんならぐっすり夢の中だ」
「そのようだね。安心しましたよ」
(おやおやおやおやおやおやおやおやおやぁっす!)
銀子は顔には全く出さずに心の中で、にちゅわぁ、と嗤った。
サタンの春子の想いはさておき、三郎も春子へ懸想しているように見えるのはきっと気のせいではない。
「春子さんは恩人だ。彼女のためならば、この三郎・ルシファー、命を賭して戦おうと思っている」
(ぬっは)
こいつはやべぇ、と銀子は震えた。
「恩人は大切にしないとな」
「はい」
(このおっさん気づいてねぇええええええええええええええええっす!)
さらに言えば、三郎も春子を本気で恩人として案じているようだ。
銀子からすると、三郎もまた春子に想いをはっきりと抱いているようにしか見えない。
(……ここで暴露してぇ、気づいてねえ親子に暴露したいっす! けど、けど! 平和主義の銀子さんにはそんなことできねぇっす!)
「ところで、青山銀子くん」
「え? あ、はい?」
急に名を呼ばれてびっくりした。
三郎の存在を知っていたが、まだ会ったことはなかったはずだ。
「君は覚えていないかもしれないが、僕は何度か君の手当てをしているよ」
「あ、そうっすか? すみませんっす、一ヶ月前までは、戦いばかりで結構怪我していたんすよね」
「ほぼ自爆ばかりだったけどね」
「それは言わないお約束っすよ!」
「じゃあ、ここだけの話で。君には何かと僕の家族がお世話になっているね。最近じゃ花子姉さんもこっちにきているし。――みんなが善とは言わないけど、悪でもないから仲良くしてあげて欲しい」
「それはもちっす! 自分もいろいろお世話になっているっすから」
「そう言ってくれるよ嬉しいよ。ありがとう、青山銀子くん」
どこか嬉しそうに三郎が顔を緩めると、銀子の腰にある魔剣に視線が向く。
「――それ、折れちゃった感じかな?」
「そんな感じっす」
「よかったら、僕が直そうか?」
「いいんすか!?」
「僕は人間が専門だけど、まあ、魔剣くらいなら嗜む程度だけど任せて欲しい」
「んじゃ、お願いするっす! 最悪、形だけなんとかしてくれれば神無家に宅急便で送るだけっすから」
「……銀子、お前なぁ」
サタンですら、銀子の考えに呆れた。
誤解されがちだが、銀子は物を大事にする人間だ。
ただ、少しベクトルが違う。
コレクションのように飾るのは彼女の趣味じゃない、魔剣は剣だ。ならば使えなくなるまで敵を斬り続けてこそ魔剣を求める者としてのすべきことだと考えている。
銀子的には、大事に使ってきた魔剣がよくここまで付き合ってくれたと感謝さえしている。
同時に、もう使えないのならば最期は綺麗に祀ってくれる場所に戻した方がいいという考えだ。
いらないから、ぽいっ、というわけではない。
銀子から魔剣花子を受け取ると、三郎の視線が魔剣太郎に向く。
「面白いね、君。ところで、もう一本の魔剣って、変わったら困る系?」
「どう変わるかっすね」
「この折れた剣はほぼ死にかけているから、そっちの元気な魔剣と一体化させてしまおうと思うんだ」
「――つまり魔剣花子と魔剣太郎の合体ってことっすか!?」
「何その名前? まいいや、うん、そうかな」
「おねがいしまっす!」
「話が早くて嬉しいよ」
銀子は満面の笑みで、魔剣太郎を差し出した。