作品タイトル不明
55「か弱い銀子さんが狙われたんじゃね?」②
さて困った、と銀子は唸った。
戦うのは別にいい。
今は素面であるので剣もきちんと触れるし、手加減もできる。
だが、大きな問題がひとつあった。
それは――お寿司だ。
四月も終わりに近づき、夜でも陽気は良くなってきた。
つまり何が言いたいかというと、お寿司が傷んでしまうのではないかという心配だった。
銀子は覚悟を決めた。
「ちょっと待ってほしいっす!」
「何かな?」
「これ、お寿司っすけど、傷むの嫌なんで、冷蔵庫に入れてきてもいいっすか?」
「なるほど。そうやって援軍を呼ぶつもりなのだね。意外と搦め手がうまいね」
「誤解っす! いや、マジで願いします。いいところのお寿司なんです! 回らないお寿司っすよ! 傷んだら台無しっす!」
「では戦おう」
「話聞いてねえっすか!?」
「聞いたよ。聞いた上で、時間稼ぎが上手いなと感心しているよ」
「こいつ深読みしすぎっす! この銀子さんがそんな頭使うことできるわけがないでしょう!」
銀子が叫ぶが、保は笑みを崩さずこれ以上会話をするつもりはないと言わんばかりの態度だ。
銀子は諦めた。
諦めて地面に座った。
「じゃあもういいっす。傷むの嫌なんで、ここでいただくっす。幸い、ビールもあるっすから、問題ないっす。――では!」
「待って待って待って、分かった。分かったよ。僕が悪かった。どうぞ、お寿司を冷蔵庫にしまってきてほしい」
「いえ、もういいっす。ここでいただきます。お腹も空いているんで」
「分かった。本当に申し訳なかった。出直すよ、明日のお昼過ぎでいいかな? こちらもいくら襲撃とは言えマナーがなかった。謝罪するから」
銀子の本気が伝わったのか、保が慌て始める。
ステファニーは「食べるなら早く食べてください」と割と冷静だった。
保は出直すことを訴えたが、銀子は聞かず箸を手に取った。
「……いいだろう。そこまで頑なであるのなら、寿司を食べたまま死ぬがいい!」
「急にキレましたね。どうしたんですか?」
「私は異世界で鮪のモンスターを生で食べて死にかけたから、寿司が嫌いなんだ!」
「超どうでもいい話です!」
ステファニーが呆れた。もう勝手にしてくれと肩をすくめた。
普段冷静を貫く保がまさか寿司ひとつで冷静さを失うとは思わなかった。もしかしたら、マイペースを貫く青山銀子と相性が悪いのかも知れない。
「――鮮血の剣」
「いやいや、そこはブラッディーソードとかにしましょうよ」
鮪の握りを口に入れて、とろけた顔をする銀子が血のような赤黒く濁った色をした剣を構えた保に突っ込んだ。
続いて烏賊を口に運び、「デリシャスっ!」とガッツポーズをした。
「その余裕、どこまで続くか見ものだね」
保が銀子に肉薄し、鮮血の剣を縦に振り下ろした。
「いやぁ、甘い太刀筋っすね。お兄さん、剣士じゃないっすよね?」
武器を持たぬ状態で斬りかかられながら、銀子は慌てることなく赤貝を口に入れてから、割り箸で鮮血の剣を挟んで止めた。
「――あり、えない」
「いやぁ、ありえるっすよ。このくらいそれなりに剣を使えるようになれば誰でもできると思うっすけどねぇ、征四郎さんや義政先生も余裕のはずっす。ま、サーモン食べていたら油ですべっていた可能性はあったっすけどね!」
ドヤ顔をする銀子に、保は絶句し、ステファニーは拍手した。