作品タイトル不明
54「か弱い銀子さんが狙われたんじゃね?」①
「なんで銀子さんだけ深夜遅くまでお仕事しなきゃいけないっすか! 新たな神々は本当っに仕事ばかり増やしてくれるっすねぇ! どうせ夏樹くんにボコボコに負ける未来しかないっすから、やるだけ無駄じゃないっすか!」
深夜の住宅街を、青山銀子が愚痴りながら歩いていた。
手には夜食用のお寿司を持ち、もう片方の手には缶ビールが入ったビニール袋を持っていた。
綾川杏を襲った獅子山を霊能力者をはじめ、力を持つ犯罪者を拘束する施設に運んで帰ってきたばかりだ。
警察署所長である父から、「いいところの」お寿司をお土産にもらったことで、少しだけ報われた気がした。
銀子的には月読命が厳重に封印した力が解けることはないだろうと考えているので、普通の人間と変わらぬ扱いでいいと思うのだが、力を使ってそれなりの被害を出しているので厳重にするそうだ。
それなら殺してしまえばいいと思うのが銀子の素直なところだ。
「せっかく今日は夏樹くんのパソコンのまだ隠れているはずのファイルを探そうって小梅さんと約束していたっすのに。銀子さん残念っす」
銀子は小梅ととんでもない約束をしていた。きっと夏樹が知れば、絶叫していただろう。
獅子山の襲撃は極めて迷惑なものであることは間違いないが、夏樹のパソコンの隠しファイルを救っていた。
「チャンスはまたあるっすからねぇ。その時、その時っす」
らんららん、と鼻歌を刻みながら軽快な足取りで由良家に向かう。
「――そうだっす! 夏樹くんが寝ているのなら、酔っ払ってお部屋間違えちゃったーって……いや、ダメっす。夏樹くんのお部屋にはサタンさんがいるじゃないっすか。なんすか、魔王と中学生がひとつの部屋で寝ているとかBL展開にならない以外意味わからねえっす」
口ではそんなことを言ってみたが夏樹が唯一ゆっくり休めるのが睡眠時だ。
さすがにその時間を邪魔するほど、銀子も無粋ではない。
「お寿司、お寿司、ビール、ビール!」
後少しで由良家に着くというところで、銀子は不意に足を止めた。
「……あの、夜中になんすか。死ぬほど迷惑なんすけど」
銀子が振り返ると、そこには二十歳を過ぎた青年と、同い年くらいの女性がいた。
青年は柔らかな表情を浮かべているが、銀子にはわかる。一見すると、好青年だが、こういう奴が平気で人を殺せるのだ。霊能力者として数多の犯罪者と戦ってきた銀子の経験が警告音を鳴らしている。
強い弱いではなく、「やばい」と。
もうひとりの女性は、海外の方だ。金髪を伸ばしたスタイルの良い、長身の姿はまるでモデルのようだった。
ただし、どちらの人間からも、神気をまるで感じない。
新たな神々と無関係とは言い切れないが、現状、予想できる組織はただひとつ。
「「帝国」の人間っすかね」
「正解。こんばんは、青山銀子さん。由良夏樹たちは悉く僕の邪魔をしてくれるから、一番弱い人間から潰していくことにしたよ」
「……一番、弱いっすねぇ。まあ、儚げな美少女っすから、しゃーないすね。ところで、こっちの名前を知っている割には、そちらは名乗らないっすね?」
「おっと申し訳ない。僕は、柏原保。「帝国」で公爵の地位にいる異世界帰りの勇者さ」
「私はステファニー。帰国子女ですが、英語は喋れません」
「……ステファニーさんの英語喋れない情報必要っすかっ!?」