作品タイトル不明
53「さすがにイラッとするんじゃね?」
アイテムボックスから結束バンドを取り出した夏樹は、腕と足に厳重に取り付けた。
新たな神々から力をもらっている獅子山ならば、簡単に結束バンドを千切ることは可能だろう。
しかし、この結束バンドはただの結束バンドではない。
銀子や千手が犯罪を犯した霊能力者を捕縛する時に使うものであり、「力」に対して耐久性はかなり高い。
それでも、夏樹なら簡単に引きちぎれる。
獅子山でも、簡単には無理でも、なんとかできるだろう。
しかし、人は目覚めたと同時に自分が拘束されていると知れば慌てる。冷静さを失い普段通りの行動ができない。
かつて夏樹も同じ目にあった時には、さすがに慌てた。五分くらいで冷静になり、夏樹を拘束した人間を完膚なきまで叩きのめしたのは懐かしい思い出だ。
「手際がええのう。それで、月読。こいつは本当に不死の力を持っているんか?」
一番の問題は獅子山の力だ。
本人は「不死」の力を名乗っているが、アマイモンとガープからすると「凄まじい再生能力」を持っているだけのようだ。
つまり「不死」ではない。
ただし、再生能力が厄介で、殺すつもりで攻撃をしても死ぬ前に再生してしまうらしい。アマイモンは殺意を込めた攻撃を繰り返したが死ななかった。それでも、力を使えば殺せたが、力を出せば周囲への影響があるため控えていたようだ。
代わりにガープが心を折ろうとしたのだが、獅子山の明日香への想いから心は折れなかったらしい。
実に厄介だ。
ただ、誰も「不死」などないと信じている。
いくら新たな神々であっても、さすがに「不死」はない。
月読が不死の神を追っていることは知っているが、夏樹でも不死の神の存在は懐疑的である。
「――いえ、持っていませんね。彼の能力は、アマイモン殿、ガープ殿の推測通り、再生能力です。同じ、人間同士であれば、不死と思える再生力でしょうね。あ、人間と言いましたが、夏樹くんは例外です」
「ひどい!」
月読はあくまでも「夏樹以外の」人間からすれば、不死に近い再生能力であると言った。
つまり高火力の攻撃力を持つ夏樹ならば問題なく殺せると言うことだ。
「彼に力を与えた幸せの神は、すでに死んでいます」
「そうなんですか?」
「ええ、幸せの神の本体が作った分体でした。本体も、少々痛めつけておきましたので、その前に彼に力を与えていたのでしょう」
「で、どうしますか、こいつ?」
「アマイモン殿から聞いていましたが、おそらく力を使い誰かを害しているでしょう」
「ありゃ」
「彼のように力を持って豹変する人間は決して少なくありません。特に、降って湧いた力であればなおのこと。残念です」
月読は心底残念そうだったが、夏樹は力の使い方を誤った奴が悪いと思う。
夏樹自身、聖剣に選ばれて異世界に召喚された、降って湧いた力を持った人間だ。
いきなり力を得て、狂ったりしなかった。
今の夏樹があるのは、長い異世界生活で熟考した結果の行動だ。
自分のことを善とは言わないが、少なくとも夏樹は自分の意思で、力など関係なく、選択し、行動している。
「彼の力は私が厳重に封じましょう。そして、被害者を調べるしかありませんね」
「手伝います」
「ありがとうございます」
「その後で、彼を然るべき場所にいれましょう」
夏樹たちは月読を手伝い、被害者を探し、見つけた。
残念だが、亡くなっていた。
被害者は、獅子山の家族や、彼と面識のある学生だった。
他にも、動物の死骸が彼の家から見つかった。
この事件の処理に、銀子の力も借りて処理した。
「やっぱり新たな神々って、面倒くせえなぁ。何かしたいんだったら、誰かに力を与えて使うんじゃなくて、自分で戦えよ。それなら、負けたっていいじゃん」
いい加減、夏樹も新たな神々の間接的な動きに苛立ってきた。