作品タイトル不明
62「決着じゃね?」②
「へえ」
夏樹は驚いた。
てっきりこれで戦いも終わりかと思ったのだが、マモンは両断されても倒れなかった。
「おの、れ」
それどころか、両断された肉体がすぐに繋がっていく。
しかし、ダメージは大きいのだろう。口から吐血し、呼吸も荒い。真っ直ぐに立っているのも辛そうだ。
「さすが魔族の幹部。すごい生命力だね。聖剣を食らって原型をとどめて置けるなんてびっくりだよ」
異世界にも両断されて死ななかった魔族がいたが、その後、すべての魔族が命乞いをしてきた。もちろん、夏樹は敵対した魔族はすべて殺している。
唯一、夏樹が殺さなかったのは、魔王くらいだ。だが、それには理由がある。魔王を殺してしまい、魔族の統率が執れなくなったら面倒なことになるからだ。
魔神は異世界に必要がなかったので殺したが、魔王は必要と判断した。きっと、今頃、魔王が人間を支配してくれているだろう。なんなら、人間を滅ぼしてくれていると嬉しい。
真っ二つにされても絶命せず、夏樹に怯えることなく、今もなお敵意剥き出しにしているマモンに夏樹は感心していた。
「ちょうどいい。今の俺がどのくらい力が使えるのか試させてもらうかな。言っておくが、殺さないという選択肢はない。小梅ちゃんにちょっかい出したことを後悔しながら、死んでいくといいよ」
背後から小梅が「もうええ!」と言っているが、夏樹は止まるつもりはない。
基本的に夏樹は甘い。
その証拠に、鬱陶しい存在である自称幼馴染みの三原優斗を放っておいている。だが、それは、夏樹にとって本当に大切なものになにもされていないからだ。
夏樹にとっての一線を越えていれば、一登が悲しもうと、三原のおじさんとおばさんが泣く結果になろうと、相応の対価を支払わせるだろう。それは、勇者としての力があろうとなかろうと変わらない。
マモンは、小梅に手を出そうとした。
夏樹にとって小梅は大切な家族だ。
付き合いの時間は短くても、彼女を大切に思える理由は十分にある。
だからこそ、マモンを野放しにできない。彼がサタンを倒すために小梅を利用しようとするのなら、消してしまった方が早いのだ。
「さようなら、まも――」
聖剣を掲げ、振り下ろそうとした夏樹の額が割れて鮮血が吹き出した。
――限界が訪れてしまった。
「あ、やべ」
手にしていた聖剣も消え、夏樹の力が大きく落ちてしまう。
「――だからって、限界を超えてもあんたはここで絶対に殺しておく!」
魔剣『常闇の剣』に残った魔力をすべて注ぎ込むと、黒い刀身から魔力の奔流が放たれた。
「くたばれ、まもん野郎!」
「やってみるがいい、人間!」
マモンが魔力で練り上げた剣を再び握り、振るう。
夏樹の魔剣とマモンの剣がぶつかり、衝撃波が生まれる。
世界の亀裂が大きくなり、軋む音が響く。
いつ壊れてもおかしくない世界を無視して、夏樹は後先考えずに魔剣を振り下ろした。
「ま……もん」
マモンは、剣ごと両断され、血を撒き散らして地面に崩れ落ちる。
だが、まだ絶命していない。
さすが七つの大罪の魔族として名を連ねるだけある。
「……やれ、お前の勝ちだ。まもんまもん」
「さようなら。強欲を司る魔族マモン。あんたのことは忘れないよ」
まともに魔剣を握っている力はないが、意地で限界を超えた力を奮って剣を掲げる。
もうマモンには抵抗できる力がないようだ。
――夏樹はマモンへ、常闇の剣を振り下ろした。
だが、振り下ろされた魔剣は、目にも止まらぬ速さでマモンの前に立ち塞がった『何者か』によって阻まれたのだった。