軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間話「力が欲しいんじゃね?」

現代に愛の女神として生まれた名も無き女神――自称愛ちゃんは、公園のブランコに腰をかけて、飴を舐めながらとある人を待っていた。

「――愛ちゃん!」

Tシャツとジップパーカー、ミニスカートにハイソックスとスニーカーという格好をした愛は、幼い少女だ。

そんな愛に息を切らせて近づいてくるのは、三原優斗だった。

「優斗くん。どうしたの、最近は連絡くれなかったのに急に連絡くれるなんて?」

寂しかった、と少し拗ねながら頬を膨らませてみるが、事情はすべて知っている。手を出した女性が多すぎて、愛の存在を忘れていたのだ。

愛としても、特別なにかしたわけではなく、あくまでも数いる彼女のひとりとして紛れ込んだだけだったので忘れていてくれてちょうどよかった。

もちろん、現在、優斗を相手にしてくれる女性が誰一人としていないことを承知している。

「急に会いたくなっちゃって。ごめんね、突然」

「ううん、いいの」

愛は内心優斗を笑った。

電話帳に登録されている女の子に片っ端から電話をして、ようやく繋がったのが愛だ。

それまで顔はもちろん、名前まで覚えていなかったというのに、よくもこのようなことが言えるものだと感心する。

(小さい頃もつまんない子だったけど、今はもっとつまらない子になっちゃったわねぇ)

近況報告をしようと、優斗が提案したものの、話すのは優斗ばかりだ。

内容は聞くに耐えないものばかりで、由良夏樹への文句、弟への苛立ち、連絡が取れない女の子たちへの侮蔑が、これでもかと優斗の口から垂れ流されていた。

(そろそろいいかしら?)

「ねえ、優斗くん」

「どうしたの?」

「なんで優斗くんが、こんな酷い目に遭っているのかわかる?」

「わかるわけないだろう? 急に世界が一変したみたいで、本当に参っているんだ。どいつもこいつも、僕がどれだけいい思いをさせてやったのか忘れたみたいなんだよ」

反射的に、「うざい」と言いそうになって必死に愛は堪えた。

「実はね、優斗くんにはとてつもない力があるの」

「え? なにを」

「でもね、それは由良夏樹によって封じられちゃったの」

「――夏樹だって!?」

由良夏樹の名を聞き、優斗は目の色を変えた。

愛に対して、何を言い出したのだ、という雰囲気だった優斗だが、夏樹の名のおかげで聞く体勢になってくれた。

「優斗くんにはとても魅力的な愛の力があったんだけど、それを知った由良夏樹に封じられちゃったの」

「ま、待ってくれ、俺に力とか夏樹に封じられたとかって」

「よく聞いてね。一度しか言わないから。理解できなかったら、お話はおしまいよ」

少し威圧を込めて優斗に微笑むと、彼はわずかに震えながら、「う、うん」と頷いた。

「私は愛の女神。幼い頃の優斗くんに、神の加護を、勇者としての力を与えたの」

「愛ちゃんが女神で……ぼ、僕が勇者?」

「そうよ。私の加護と勇者の力のおかげで優斗くんはみんなに愛されていたの。そのうち、力に目覚めてとてつもない力を手に入れる予定だったのに……」

「夏樹が封じたって言うのか?」

「うん。由良夏樹がどこでどうやって手に入れたのか知らないけど、優斗くんよりも強力な勇者としての力を持っているわ。その力で、優斗くんの力が目覚める前に全部封じちゃったの」

「……勇者とか……本当にいるのか。一登の読んでいるくだらない漫画や小説くらいにしか出てこないと思っていたけど」

(あんたが一番くだらない奴だけどねー)

「だけど、合点がいったよ」

「え?」

「ずっと昔から思っていた。僕は選ばれた存在だって。でも、勇者なんて。女神に愛されているなんて」

「いや、愛してはいないんだけど……聞いてねえし」

優斗が都合のいいことを受け入れやすいことは知っていたが、これ程かと思わず愛も苦笑いだ。

「それで、どうすれば僕は力を取り戻せるの?」

「うーん、無理かな。由良夏樹の封印は本人が解除することを想定していないから、ぐっちゃぐちゃなの。だから二度と、優斗くんの力は解放されない」

「そんな……くそっ、そうだ、いつだってそうさ! 夏樹は僕のものを何でも欲しがって奪っていくんだ!」

(それはおめーだろー! あー、だけど、この子って由良夏樹の本当に大事なものってなにひとつ奪えてないのよねぇ。だっさ!)

内心では優斗を小馬鹿にしながら、親身に寄り添う少女を演じ続ける。

「だからね。愛の女神様から優斗くんに、第二の加護をあげる」

「――え?」

「由良夏樹をぐっちゃぐっちゃに殺すことのできる、力を、望んでくれるならあげることができるけどどうする?」

愛は、ブランコから降りるとにこやかな笑みを浮かべて手を伸ばす。

次の瞬間、優斗は愛の手を握りしめていた。

(うわぁ、このクズ。仮にも幼馴染みを殺す力を手に入れるのに躊躇いがないんだけどー。由良夏樹くん、どんまい)

「いいわ。優斗くんに幼馴染みを殺す覚悟があるのなら、力をあげる!」

「もちろんだよ! 夏樹を殺していいのなら、喜んで殺すさ! あいつがいなくなれば、みんなは僕のものだ! ははははは! ついでに、一登も僕を蔑む親も、鬱陶しい教師も、言うことを聞かない女も、みんな痛めつけてから殺してやる!」

(うわぁ、引くわぁ、愛の女神的に。こいつには愛がなーんもないのよねぇ。はぁ。でも仕方がないか。弟くんと間違えて兄の方に加護をあげちゃったんだから、女神的に最後まで面倒みないとね。まもんまもん)

愛の女神は、由良夏樹が施した優斗への封印を解くことができなかった。

しかし、代わりとなるべく強い力を与えたのだ。

(マモンと蓮くんが、由良夏樹に仕掛けるみたいだから、ついでに仕掛けてみよっかな。月読やルシフェルがうぜえけど、ま、いいでしょ。ふふっ、由良夏樹も楽しみだけど、三原一登くんがどんな成長したのか楽しみだな。まもんまもん)

「――って、私にまもんまもんが伝染っちゃってるじゃない! あのくそマモン!」

「愛ちゃん? まもんってなに?」

「あは、あはははは。なんでもないよー」