作品タイトル不明
28「また来ちゃったんじゃね?」
「美味しかった! 美味しかったけど、変に緊張して疲れた!」
食事を終えた夏樹たちは、歩いて帰路についていた。
ありすが送ってくれると言ってくれたが、腹ごなしに歩きたいと思ったからやんわり断った。
「帝国」の人間である滝こずえと、和解した篠原キリエと共にありすと多聞は車で帰っていった。
「まさか鹿おどしがかこーんて鳴ってるような料亭でご飯を食べれる日が来るなんて思わなかった。……お高い料理にお腹が負けないといいんだけど」
「どういう心配じゃ。まあ、俺様も割と庶民派なんじゃが、日本食にはなんでもテンションが上がってしまうんじゃ!」
「私は高級志向よ! オーガニックじゃなければ口にしないわ……なんて言っていることがありました。農家さん、舐めたこと言ってすみません」
夏樹、小梅、花子がそれぞれ好き勝手に言う。
「悪いが、こっちを手伝ってくれねえかな!」
そう言うのは千手だった。
彼の背中には虎童子がおぶさっている。
「まあまあ、千ちゃん。これも役得だと思ってだね」
「何が役得だ! 普通に重いんだよ!」
千手の父康弘がフォローしようとして失敗している。
虎童子が千手の背中にいるのは、ひとえにお腹が空いて動けないからだった。
料亭でお行儀よく食事をした虎童子は、姉の酒呑童子から礼儀作法を叩き込まれているらしい。ただ、それはそれとして、単純に量が足りなかったのだが、おかわりを我慢していた。
料亭から出てどこかで食べればいいと考えていたようだが、虎童子自身が想像していたよりも早く限界が訪れたのだった。
「ごめんなさい、千手さん。変わってあげたいんだけど、火輪さんがほっぺを膨らませるから」
「いや、三原はいいんだ。今まで通り、いい子でいてくれ」
「千手さん! 僕が変わります! 背中にいろいろ全力で接触しちゃっても不可抗力だもんね!」
「佐渡ぃ! お前は絶好調だな! せっかく異世界でダークエルフの嫁さんと出会ったんだから少しは自重しやがれ!」
「無理だよ! せっかくファンタジーの世界があるって知ったのに!」
「お前はそのファンタジーの世界で酷い目に遭わされたじゃねえか!」
「ふっ、それはそれ、これはこれ、さ!」
「……こ、この野郎」
「それにね、こんな僕をソーニャさんは大好きだって言ってくれるんだから、僕はこれからも僕らしくいくぜ!」
「理解のあるお嫁さんでよかったな! 懐深すぎだろ!」
普段は虎童子にそっけない千手だが、さすがに祐介におんぶを変わるのは危険であるとわかっているので、預けることはしない。
「――ふふふ、千手さんったら、なんだかんだ言って僕にとらぴーを取られたくないって顔に出ているゾ!」
千手の両腕が塞がっていることをいいことに、祐介は彼の額を「つん」と突いた。
次の瞬間、千手の顔が怒りの形相になり、祐介の腹に蹴りを入れる。
「甘いよ、抹茶ラテのように甘いよ、千手さん。大地の勇者はタフボーイなんだよ!」
「うぜぇえええええええええええええええええええええ!」
千手が何度も蹴りを入れても、祐介は平気な顔をしている。
「あ、ちょっと待った、千手さん。ストップ! だんだん気持ち良くなってきた!」
「……もう嫌! 一ヶ月前までの俺のクールな日々を返して!」
「もう千手さんったら、ツッコミの勇者のくせに!」
「それも気に入らねえから! そもそも俺は勇者じゃないんだよ!」
「またまたぁ」
「逆に、なんでお前たちが勇者か勇者じゃないかちゃんと判断できないんだよ!」
千手のツッコミが冴え渡っていると、音もなく十人ほどの人影が目の前に立ち塞がった。
「――マジかぁああああああああああああああああ! またイベントかぁあああああああああああああああ!」
立ち塞がった者たちが新たな神々であることを知り、夏樹が絶叫すると同時に「蒼穹の星槍」を抜いた。
新たな神々は、夏樹たちに向かい揃って頭を下げた。
「門の神を殺してくれて、どうもありがとうございました!」
「ふえ?」
唐突な感謝も言葉に、さすがの夏樹も硬直してしまった。