作品タイトル不明
8「泥臭く戦うんじゃね?」②
――ごんっ。
鈍い音が倉庫に響いた。
夏樹の割れた額が、死の神の額を割った。
血が吹き出し、夏樹の顔を真っ赤に染めた。
「この、石頭、が」
「河童大神様の加護だよ、この野郎!」
夏樹は再び頭突きをした。
さすがに、二度の頭突きは夏樹にも尋常ではないダメージがあった。
もう自分の血なのか、死の神の血なのかわからない。
お互いの血が混ざり合っている気さえした。
だが、夏樹よりもダメージが受けたのが死の神の方だった。
力なく、夏樹に覆い被さるように倒れてくる。
意識が朦朧としているのかもしれない。
彼は、死を司る神だ。今まで命を奪うことをしても、このような泥臭い戦いを経験したことはないのかもしれない。そのせいで、これほどダメージを負ったこともないのだろう。
ならば、今が好機である。
夏樹は死の神を横に放り投げると、ふらつきながら膝立ちになって近づくと、彼の髪を掴んだ。
そして、そのまま、顔面を地面に叩きつける。
二度、三度、四度、五度と何度も繰り返す。
アスファルトが割れ、砕けた。
血飛沫が至る所に飛ぶ。
「…………あれ、俺もやられたんだよなぁ。死ぬかと思うほど痛かったけど、あそこまでむっちゃくちゃにやられなくてよかった」
かつて夏樹にアスファルトに叩きつけられた経験がある千手が顔を青くしていた。
「あの子、そんなことするの!? バーサーカーなの!?」
「まごうことなきバーサーカーなんじゃ!」
気づけば、小梅たちに襲いかかっていた圧迫感が消えてる。
「ひえ」
「ぴぃ」
「た、たもん」
ありすとキリエ、そして多聞が夏樹の血も涙も無い攻撃に怯え、滝に抱きついていた。
そんな滝は、「あらあらやんちゃねぇ」と特に怯えた様子は見せていない。
その間にも夏樹は止まらない。
もう意識が完全に飛んでいる死の神は、されるがままだ。
神であってもこのまま死んでしまうのではないかと誰もが思う。
そして、身体強化をしているとしても、物理で神を殺そうとしている夏樹に一同はドン引きだ。
実際は、夏樹も血を流しすぎていて、一時的に「ハイ」になってしまっているだけだ。
すでに、死の神の頭部が何度もぶつけられているアスファルトは真っ赤になっている。
動かなくなった死の神をまだ攻撃する夏樹を止めるべきかと小梅たちは悩んだ。
死を司る神である死の神をここで逃せば絶対的な敵としてまた現れるだろう。
ならば、ここで殺してしまった方がいいと思われた。
だが、誰かのために戦おうとする死の神を、敵だと割りきり殺してもいいものかと悩む。
本当に死の神は明確な敵なのか、と考えてしまったのだ。
だからと言って、今の夏樹を止められる自信がないが。
――小梅たちが躊躇していた時、何度目になるのかわからないアスファルトに顔面を叩きつけられた死の神の目が見開き、瞳に光が戻った。
「――しま、夏樹っ!」
誰よりも先に気づいた小梅が叫んだ。
しかし、その叫びが夏樹をわずかに正気に戻し、動きが止まった。
そして、その瞬間、死の神がすべての神力を攻撃として放った。
収束も強化もなにもしていないただ我武者羅に放った力の塊だった。
ほぼ距離がゼロに近い状態で放たれた一撃は、夏樹を完全に捉えた。
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
刹那、夏樹の身体から凄まじい雷が放たれた。
――そして、雷と力がぶつかり合い、倉庫が爆発した。