作品タイトル不明
6「自分を過信している姿って悲しくね?」③
「――け、ほ」
保の口から大量の血が流れた。
その理由は、ヒュドラを両断した天叢雲剣の斬撃が届いていたからだ。
胸を深く斬り裂かれ、胸からも大量の血を流している。
「素盞嗚!」
「やべ」
月読と素盞嗚尊が慌てた。
保は「帝国」の幹部だ。
吐かせる情報は山のようにあるのだ。
ここで死なれては困る。
ふたりが保に駆け寄り治療を施そうとしたが、他ならぬ保によって拒まれた。
「ご心配には感謝しますが、私はこのくらいでは死にませんよ」
手を掲げた保は、血に塗れた服を破る。
「――これは」
「ありえねえ」
天叢雲剣によって斬られた胸がいつの間にか塞がっていたのだ。
月読命も素盞嗚尊も、「殺してしまった」と考えていただけに、驚きを禁じ得ない。
素盞嗚尊の振るう天叢雲剣に斬られて平然とできる人間など早々いない。
異世界で勇者になり、魔王の力を得たと言っても神に匹敵するとは思わない。
夏樹のように異世界で神殺しをしているのならいざしらず、魔王程度では神には程遠い実力差があるのだから。
「ははは、死ぬかと思いましたよ」
「なんで死なねえんだよ?」
「いくつか保険をかけているんですよ。それでも、死にかけましたけどね。さすが素盞嗚尊様です。想像以上のお力でした」
死にかけていながら、保にはまだ余裕があった。
「なあ、兄ちゃん。こいつここで殺していいか?」
「無力化して捕縛したいんですけど」
「たぶん無理」
「…………」
「沈黙は肯定って受け取るぜ」
素盞嗚尊が地面を蹴る。
アスファルトを砕き、保に肉薄する。
天叢雲剣を振るい、保の腹を両断した。
確実な手応えがあり、保の上半身と下半身が別れた瞬間を素盞嗚尊は間違いなく見た。
しかし、次の瞬間には、保の身体は何事もなかったように元通りになっていた。
「再生能力? いや、違う」
「はい、違います。残念ですが、素盞嗚尊様では私は殺せません。同時に、どうやら私もあなたを殺せないようです」
「そう簡単に神殺しができるわけねえだろ!」
三度目となる斬撃で保の首を刎ねたが、やはり死ななかった。
(ああ、面倒臭え。こいつ、何かと繋がっているな。ダメージを受けるたびに、繋がっている何かに肩代わりさせているってわけだ。攻撃を早くして何度も殺すか。それとも、肩代わりできないくらいの一撃を――あ、だめだ。この辺が消し飛んぶか。くそ、兄ちゃんみたいに制限をつけていればよかったぜ!)
兄と違い、制限のない素盞嗚尊がそれなりの力を使えば、この港は全壊してしまうだろう。
だが手をぬけば殺せない。
戦って強いとは思わないが、面倒な人間であると保を判断した。
「私を殺せないと理解してくれましたか?」
「うんにゃ。殺せるが、被害が大きくなっちまうってだけだ。ただ、俺からすると、お前程度の奴を犠牲を出してまで殺す必要を感じねえ」
「なるほど。どうぞお好きに。そのくらいの言葉でいちいち怒ったりはしませんよ」
保の姿揺らめいた。
「では、今回はこのくらいで失礼します。次は、念入りに神殺しの準備をして現れましょう」
「そうかよ。んじゃ、土産を持って行け」
保の姿が薄くなっていくが、気にせず素盞嗚尊は天叢雲剣を振るった。
刀身が保の胸を貫く。
血が吹き出したと同時に、刀身を胸から抜いた。
「――じゃあな」
月読が笑うと、苦い顔をした保が消えた。
「素盞嗚尊、最後は何を?」
「あの野郎、俺の攻撃を誰かに肩代わりさせているようだけど、どこまで耐えられるのか試してみたんだよ。胸に天叢雲剣を突き立てて、身体の中に思い切り神力叩き込んでやったぜ。ま、死にゃしねえだろうけど、死ぬほど痛いはずだ」
くけけ、と笑う素盞嗚尊に、月詠は安心した顔をした。
「思いがけず足止めをくらいましたが、夏樹くんのところへ」
月読がそういった瞬間、夏樹たちがいるはずの倉庫が爆発した。