作品タイトル不明
プロローグ「つくつくとすさすさじゃね?」
月読命は内心ため息をついていた。
スラックスにシャツというラフの格好の月読は、疲れた顔をしている。
「なるほど、これが予定通りにことが運ばない時の焦りと苛立ちなのですね。夏樹くんのおかげで理解していたつもりですが、改めて理解させられました」
夏樹たちがいる倉庫に向かい移動していた月読を「帝国」の人間が壁となって阻んでいた。
港の中に入り、もう少しで到着する直前で現れた以上、待っていたのだろう。
月読を止めようとしているのか、倒そうとしているのか、他にも目的があるのかわからないが、「帝国」の人間たちの力は取るに足らない程度だ。
月読が足を止めているのは、彼らをどう対処するか悩んでいるからだ。
「――すさすさだよ!」
悩む月読の背後に弟の素盞嗚尊が降ってきた。
甚平にサンダルのやんちゃな雰囲気を持つ中年男性に見えるが、月読と共に三貴人の一柱である。
「遅かったですね、素盞嗚」
「悪い悪い、俺の方には新たな神々がやってきたんだよ」
「それは大変でしたね」
「はははは、兄ちゃんも面白いこと言うなぁ。あんな雑魚を間引くのに大変なわけがないっしょ」
「あなたらしいですね」
「まあね! ところで、なんでこいつら殺さないの? もう俺たちの神気に当たられて動くこともできないじゃん」
「素盞嗚が来るまではまだ会話はできたのですが」
素盞嗚尊が手にしているのは剣ではなく、鉄パイプだ。
半分くらい赤く染まっているのはご愛嬌だ。
鉄パイプで肩を叩きながら、素盞嗚尊は鼻を鳴らした。
「襲撃されているのに会話か。兄ちゃんは優しいなぁ、甘いとも言うけどさ」
「相手は人ですから」
「でもさ、こいつら力に溺れてやりたい放題しているぜ。匂いでわかる。それなりに人を殺しているし、甚振っているぜ」
「……わかっています」
「代わりに俺が殺してやってもいいけど?」
「……いいえ、弟に代わりに人を殺せなどと言いませんよ」
一度目を伏せた月読は、目を開く。
彼の顔には「目の前の人間を殺す」覚悟があった。
人の社会で生きている以上、人間の命を奪うことはできる限りしたくはなかったが、明確に敵対している「帝国」の人間を野放しにすることはできない。
素盞嗚尊の言う通り、彼らはたくさんの「悪事」をしてしまっている。
力に飲み込まれたのか、それとも何か事情があったのか、もしくは力を使ってみたかったのか、月読にはわからない。どれだけ人間の社会で生きていてもわからないのだ。
月読が仕方がなく、「帝国」の人間の命を奪おうとするよりも早く、遠くから放たれた複数の剣が彼らの頭と胸に突き刺さった。
「帝国」の人間たちが、倒れた。
驚きながらも月読が駆け寄るが、彼はすでに絶命したいた。
「――お初にお目にかかります」
港の中にある小規模なビルの上に、青年がいた。
すぐに「帝国」の人間。それも、おそらく「帝国」内で上層部の人間であるとわかった。
「月読命様だけではなく、素盞嗚尊様までおられるとは――我が身が震えます。私は、柏原保と申します。神殺しという偉業を、今、ここで果たすために参上しました」