作品タイトル不明
エピローグ「厄介な相手を敵にしちゃったんじゃね?」
顔面を殴られた死の神が、二歩、後退した。
顔を押さえ、唇の血を指で拭う。
赤く染まった指を見てから、指を舐める。
死の神は、夏樹をじぃっと見つめて、納得したように頷いた。
「なるほど、そういうことか」
「なにがだよ?」
「由良夏樹……お前はとてつもなく大きく、恐ろしい何かに憑かれているようだな。その何かが私の死からお前を守っている」
(恐ろしい何かって、ホラーさんのことかな? いやっ、ホラーさんは恐ろしくなんてない! 死の神め、なんて酷いことを、許せねぇ!)
「俺を守護するホラーさんを恐ろしいとか言うんじゃねえよ!」
「お前の言葉は理解不能だ」
死の神は、血の混ざった唾を吐くと、首を鳴らす。
「どちらにせよ、私のすることは変わらない。由良夏樹に私の死が効かずとも、直接殺せばいいだけの話だ」
「絶好調だな、あんた! つーか、俺を狙う理由ってなんだっけ?」
「金だ」
「あー、そういえば、そんな俗っぽいこと言っていたよねー。ちなみに、いくらもらえるの?」
「……一億だ」
「――ホワイ? え? 一億? 一億円ってこと? 一円玉一億枚もらえるの? すっげー重いから持って歩けないと思うよ!?」
「……一円玉ではもらう必要も、持ち歩く必要もない」
「いやぁ、マジかよ。由良さん家の夏樹くんを殺したら一億円もらえるの? 俺も由良夏樹殺して一億円欲しいんですけどー! って、俺のことじゃん! ぷふふー!」
「…………」
「なんか反応しろよ! 無反応が一番傷つくんだよ!」
夏樹はいつも通り――に見えるが、攻撃するタイミングを窺っていた。
死の神は無防備に立っている。
それは、「死」という圧倒的な力を持っているからだ。
おそらく、今まで殺せなかった相手はおらず、構えを取る必要さえなかったのだろう。
そんな死の神が、戦うと決めて構えた時、どれほどの力を出すのか夏樹には想像もできない。
「そういえば、一億円なんて手に入れて何をするつもりなの?」
「お前に言う必要はない」
「いや、あるでしょう!?」
「どうせ死体になるのだから、聞いても無駄だ」
「かっちーん。そういうこと言うんだね。なら、俺は全力で逃げるよ。月読先生とか知り合いの神や魔族に助けを求めて全力で逃げ切るからね!」
「だが、いずれは死ぬ」
「そうだね。でもさ、あんた……すぐにお金が欲しいんだよね? じゃなきゃ、この間会ったばかりなのにすぐに俺の前に来るなんてことはないでしょう?」
「……面倒な子供だ」
死の神は、大きく嘆息した。
そして、しぶしぶだが己の行動理由を話した。
「ほんの戯れだ。金がなければ助けられない人間がいる。だから、金が必要だ。だから、お前を殺す。それだけのことだ」
「ひひひっ」
「何を笑う?」
死の神が眉を釣り上げた。
「いいこと聞いちゃった! きーめた! 俺はあんたを殺したら、あんたの助けたい人も殺しちゃおーっと!」
「――っ、貴様っ!」
「おうおう、焦るじゃない! 焦っちゃうよな! あんた、純粋だなぁ。きっと根は悪い神じゃないんだと思う。だけどさ、――俺にいらぬちょっかいを掛けてきたことを、それこそ死ぬほど後悔させてあげるよ。呪うなら、敵対している相手に馬鹿正直に事情を吐いた自分自身を呪うんだね!」
「由良夏樹ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」