作品タイトル不明
57「仕掛けられたんじゃね?」①
銀子のワゴン車に乗り込んで水無月家を後にした夏樹たち。
「いやー、天照大神様もびっくりでしたが、私的には月読命様がいきなり現れたのがびっくりでしたよ!」
「ほんとそれじゃな! 日本のトップ陣好き勝手しすぎじゃろう!」
「いや、日本側も小梅さんだけには言われたくねーっすよ」
運転席と助手席で、来るときと変わらず軽口を叩き合う、銀子と小梅。
夏樹と一登は顔を見合わせて苦笑した。
「んじゃ、どっかでラーメンでも食べて学校行こうかな」
「そういえば、夏樹くんの好きな冷やし中華が始まっているお店があるよ!」
「なん、だと!? 銀子さん、お昼は冷やし中華にしようぜ!」
「えー、フレンチいきましょうよ! せっかくお金を手に入れたんですから!」
「中学生にテーブルマナーは無理だよ!」
「じゃあ、焼肉じゃな! 食べ放題じゃなくて、目の前の鉄板で焼いてくれるやつじゃ!」
「小梅ちゃん、焼肉っていうか、ステーキだよ!」
「あはははは、みんなフリーダムだね」
夏樹たちのやりとりに、一登が楽しそうに笑った。
夏樹は、一登にとって今回のことは驚きの連続ではあったと思うが、散々不愉快な兄に振り回された彼の気晴らしになってくれればと思っている。
ジャックも一登のことを気にかけていたし、今回の謝礼でどこかみんなで旅行に行けたらいい。
(旅行ならチケット当たったとか、誤魔化せるんじゃないかな)
夏樹がそんなことを考えていると、
「あん?」
「おっと」
「おおう?」
「え? どうしたの?」
竹林に囲まれた道路を走っていたワゴン車が結界に閉じ込められた。
銀子がブレーキを踏んで停車させた。
「まさか天照大神様とお会いした後に、こんなに堂々と仕掛けてくる馬鹿がいるとは思いませんでした」
「あー、銀子は天照大神に期待をしているかもしれんが、神は人間の争い事に関わらんのが基本だから援軍は来ないと思った方がええぞ。それがわかっておるから仕掛けてきたんじゃろうな」
「おい、神族!」
「人間に関わっていたらキリがないんじゃよ」
どうやら天照大神の力は借りられないようだ。
だが、それでいいと思う。
神々が人間に干渉していたら、人間は神に頼るだけになる。それは、どちらにとってもよくない。
(とはいえ、一登になにかあったら天照大神がなにするかわからないから、死ぬ気で守らないとね!)
「とりあえず車から出ますか。相手が誰であれ、霊力やなんかで車ごと吹っ飛ばされた方が危険っすから」
「了解」
銀子の提案を受け、夏樹たちは車から出る。
すると、世界が変わった。
「おおおおお!?」
「強制転移じゃな。俺様たちがここを通るとわかっていて、仕掛けておったんじゃろう」
足止めをしてから、どこかへ転移とは十分に準備されているのがわかった。
夏樹たちが転移されたのは、古代ローマの円形闘技場コロシアムのような場所だ。
リングがあるわけではないが、朽ちかけた石の壁と、観客席があり、夏樹たちが立つ場所は固めた土が敷き詰められている。
「まもーん、まもーん、まもーん!」
「まもん! まもん! まもん! まもん! まもん! まもん!」
ふたつの声が響く。
「何者だ!」
夏樹が鋭い声を出した。
「いや、自分たちでまもん言うとるじゃろうが。これだけ主張が激しくてマモン以外が出てきたらびっくりじゃぞ」
「なるほど。そういう可能性もあるのか」
「そうとしか考えられんじゃろう! ときどき、馬鹿じゃな、夏樹は!」
サタンが忠告してくれた存在マモンをすっかり忘れていた夏樹は、小梅に頭を叩かれて思い出し、身構える。
夏樹たちの視界の中で、観客席に立つスラックスとシャツというラフな格好の三十代半ばほどの男性と、二十歳ほどの長髪の黒ずくめの青年がいた。
「小梅の言う通り、俺は七つの大罪の中で強欲を司る魔族、マモンだ! まもんまもん!」
「うわぁ。語尾の主張が強っ!」
夏樹たちは、小梅を狙っていると聞かされている魔族の幹部マモンと相対するのだった。