作品タイトル不明
56「謝礼じゃね?」
水無月家の玄関にて、夏樹たちは茅たちに見送られていた。
「夏樹くん……都と仲良くなれたのは、君のおかげ。土曜日は楽しかった。どうもありがとう」
「夏樹くん、ありがとう! 一登くんも、また学校でね」
「突然、俺までお邪魔しちゃってすみませんでした」
「うん。都さん、澪さん、お土産ありがとうね。また学校で!」
姉妹と挨拶を交わすと、続いて水無月茅と八咫柊が深々と礼をした。
「由良夏樹様、青山銀子様、ルシファー・小梅様、そして三原一登様。本日は、水無月家のためにご足労どうもありがとうございました。とくに夏樹様、一登様は学校をお休みしていただく形になって申し訳ございません」
ひとしきり天照大神への説教をした月読命が「仕事があるので帰ります。天照大神、ちゃんとしてくださいね。夏樹くん、一登くん、都さん、特に用事がなければ午後からでも学校に来てくださいね」と言い残して学校に戻っていった。
天照大神は、月読に絞られたことや、一登に醜態を見せたことが堪えたのか、とりあえず身だしなみを整えるためにお風呂に向かってここにはいない。雲海老女は、天照大神と共に風呂場にいる。星雲は、「月読命様はああ言ったが、風呂上がりにいっぱいくらい飲みてえだろう」とビールの準備をしているので、ここにはいない。
しかし、「えーっと、なんかいろいろすんません」と謝罪し、一登に変わらずやりとりをしてほしいとお願いしていた。
そして、夏樹たちも水無月家を後にすることにした。
茅は「昼食でも」と言ってくれたのだが、遠慮することにしたのだ。
「いえいえ。俺も水無月家にはお世話になると思いますし、お互い様ってことで」
「そう言っていただけると嬉しいです。こちら、手渡しで申し訳ございませんが、本日の謝礼です」
「……え?」
水無月茅から手渡された封筒は厚みがありずっしりしていた。
「えっと、これは、お金ですよね?」
「本来なら口座に振り込ませていただくのですが、不作法で申し訳ございません」
「いやいやいやいや、渡すなら俺じゃなくて月読先生に渡してくださいよ!」
「月読命様にはお断りされてしまいました」
「じゃあ、俺たちも」
「いえ、夏樹様たちは水無月家からの要請で本日来ていただいています。謝礼なしとはいきません」
「す、すみません、ちょっとタイム。全員集合!」
「はい?」
夏樹たちは、水無月家の方々から少し離れて円陣を組んだ。
「はわわわわわ、やーだー! これ、絶対立つって! 一センチあるもん!」
「……あのさ、夏樹くん。お金が一センチって……百万円じゃ」
「千円札でも十万円だよぉ」
恐る恐る中身を一登と確認してみると、千円札ではなく、一万円札が入っていた。
しかも、新札で、帯が巻いてあるやつだ。
「ど、ドラマでしか見たことないんだけど」
「俺もだよ」
「と、とりあえず、一登、これで俺のほっぺたを叩いてくれ」
「そいや!」
――ぱんっ。
「ありがとうございます!」
普通の中学生ではまず手にすることのない大金に夏樹と一登は混乱気味だ。
「百万円あったら、なんでも買えるよ!」
「人の命だって買えちゃうよ!」
「いやいや、百万でそこまではできねーっすよ」
「いくらなんでも、動揺しすぎじゃろ」
中学生ふたりに対して、銀子と小梅は冷静だった。
「だ、だけどさ、銀子さん、小梅ちゃん」
「……一日拘束したことを考えても、この謝礼は破格っすけど、四人分って考えればひとり二十五万っすよ。なによりも天照大神を相手にしたんですから、安いくらいっす」
「こんな大金もらっても困るんだけど」
「下手したら命狙われますよ?」
「いい子っすね、夏樹くんも、一登くんも。おねーさんは、すくねぇって思っちゃったっす」
「銀子は悪い子じゃな。つーか、夏樹、一登――」
小梅が、珍しく真面目な顔をして夏樹と一登の顔をまじまじと見た。
「金はマジで大事じゃ。いくらあっても困らん。各地を放浪した俺様が言うんじゃ、間違いない。もらっとくんじゃ」
威圧感のある小梅の声に、夏樹と一登は頷く。
「それに、じゃ。向こうも、俺様たちと縁を繋いでおきたいからケチ臭いところは見せたくないから、いらんと言っても絶対に金は受け取らんぞ。あと、大人の差し出したものを突き返すのは、礼儀としてもなっとらん。額が額で困惑するかもしれんが、ありがたく頂戴しておくんじゃ」
「……小梅ちゃん」
「ママさんには埋蔵金見つけたとか言って渡せばいいんじゃ」
「……小梅ちゃん?」
「なんじゃったら、俺様の酒代として……」
「小梅ちゃーん?」
「冗談じゃ」
真面目なことを言うのは照れ臭かったのか、小梅は若干本音混じりなことを言った。
小梅に銀子も賛同する。
「あとあれっすよ。いざとなったら破壊神な夏樹くんはもちろんっすけど、天照大神様とフレンドリーな一登くんとも仲良くしておきたいって水無月家のポーズだと思うっす。ここはお金を受け取って、お互いに気持ちよく帰りましょう」
「……わかった。よし、解散」
円陣を解除すると、夏樹たちは水無月家に向かって頭を下げた。
「ありがたく頂戴します!」