作品タイトル不明
70「大金って目の前にあるとビビらね?」①
サタンはノックをしてから夏樹の部屋に入った。
寝息が聞こえているので、返事がないことはわかっていたが親しき中にも礼儀ありだ。
「サタンさんが入りますよ、と」
ベッドを確認すると、夏樹がうつ伏せになって眠っている。
気配に敏感な夏樹が、サタンの入室に気づいて目覚めないのは家族として認識してくれているからか、それとも疲労のせいか、どちらかだろう。
「気持ちよさそうなところを起こすのも気が引けるな」
時計を見れば、まだ九時半だ。
夏樹が二度寝してから二時間経つか経たないかくらいだ。
「小梅ちゃんなら人間を相手にして何かあるとは思わないけど……夏樹という規格外がいるから、異世界からの帰還者ってちょっとおっかないんだよな」
夏樹レベルの規格外がゴロゴロしていたら問題だ。
だが、夏樹は規格外という枠の中でもう枠を越えそうなところにいる。もしかしたら、異世界帰還者の中には、夏樹ほどではないが規格外がいる可能性は多いにある。
百合園ありすはサタンが視る限り、規格外であっても脅威ではないと思えた。
サタンの子供たちはみんな規格外だ。
天使、という言葉では括れない力を持っている。
その筆頭が小梅であり、力が本当の意味で覚醒したときの伸び代はサタンでも未知数なくらいである。
現状、花子も規格外の強さがあり、まだまだ成長中であるが、潜在能力としては小梅の方が上だ。ただし、花子は基本スペックが規格外なので、今の夏樹と戦えば普通に勝つだろうくらいに強い。
もっとも、花子も小梅も、戦いを嫌う三郎も、魔界で忙しい 一心(ぴゅあ) も力があっても夏樹と戦うことはしないだろう。
「サタンさん的には、余計な手出しはしたくないんだけどなぁ」
あくまでもサタンはルシファー・太一郎としてここにいるのだ。
サタンとして力を振るうことはないと信じたい。
もしも、サタンとして戦わなければならない時は、春子に何かがあった時か、夏樹でも手も足も出ないような敵が現れた時かもしれない。
しかし、不思議と、夏樹がどうしようもないと負けるような姿を想像できなかった。
「夏樹には悪いが、一度起こすか。ささっと面倒ごとを処理してまた寝た方がいいだろう」
夏樹を起こすために、サタンはギターとアンプ、エフェクターを用意して電源を入れる。
ギターを肩にかけると、ピックを取り出し、重低音なメタルサウンドを掻き鳴らした。
サタンのギターが響くと、近所の高梨さんがベースを鳴らし始め、森田さんがドラムを叩き始めた。
――もちろん、夏樹は飛び起きた。
■
リムジンの中で小梅が震えていた。
「――一千万じゃと……人の命が買える額じゃろうて」
「いえ、あの、人の命は買えませんわ」
「俺様の命なら買えるんじゃがな!? あ、いや、そうではなくてじゃな!」
こほん、と咳払いをすると小梅が足を組み、背もたれに背中を預けた。
「「帝国」とやらに案内せい! 夏樹が出るまでもないんじゃ。このスーパーウルトラ美少女天使小梅様がけちょんけちょんにしてやるんじゃ!」
「わたくし、漫画以外で目をお金マークにしている方って初めてみましたわ!」
小梅はお金に目が眩んでしまい、夏樹の代わりに戦う気満々になってしまった。