作品タイトル不明
68「お嬢様キャラが言葉を崩すとなんか良くね?」①
小梅は車内でアリスと多聞と向き合う形で足を組んで座っていた。
(――特に何かの呪いは施してないようじゃが)
車は静かに向島市街を走っている。
ある意味、究極の密室だ。
「ご安心ください、この車は防弾仕様ですわ」
「別に聞いていないんじゃが!?」
「一度も撃たれたことはありませんが」
「じゃろうな! むしろ日本で撃たれておったら大変じゃぞ!?」
正直、小梅は緊張していた。
父親が魔王で、小梅は生まれも育ちもお嬢様であり縦ロールを巻いていた時期もあったが、基本的に豪勢な生活をしたことはない。
金銭感覚的には、日本人の一般家庭と変わらない。
金のない日々を数年過ごしていた経験もあるので、特別贅沢したいわけではない。
安心して眠れる場所と、三食に酒、できれば他愛ない話ができる友人がいればいい。欲を言うのなら、家族がほしい。
そんな小梅の願いは大半叶っているので、幸せだ。
それゆえに、急に場違いなリムジンに乗ったのはいいが、とにかく落ち着かなかった。
「小梅様のお心を小粋なジョークで和ませたところで、どうぞシャンパンをお飲みください」
「――いらん」
小梅の横には、シャンパンクーラーが置かれ、冷えたシャンパンが刺さっている。
「毒など入っていませんが?」
「人間が用意する程度の毒が俺様に効くわけないじゃろう」
「えっと、でしたらどうぞ?」
「いらん。俺様は、気心の知れた奴以外とは酒は飲まんのじゃ」
「そうですか。残念ですわ。多聞、今夜の晩酌にそちらのシャンパンを飲んでくださいませ」
「はっ、ありがたきたもんまもん!」
「もうそういうのはええんじゃ。――んで、おどれは夏樹に何のようじゃ? 事と次第によっては、リムジンが爆散するくらいは覚悟して欲しいんじゃがのう?」
脅すつもりはない。
小梅はそのような腹芸をすることは好まない。
言葉通り、少しでも気に入らなければ、問答無用でリムジンを爆散するだろう。
相手は「帝国」を名乗り、夏樹をスカウトしにきたと言ったのだ。
そのくらいのリスクがあって当然だ。
「あら、怖いですわね。ですが、はい。わたくしとしても、誠意をもってご対応させていただきたいと思っています。しかし、小梅様ではなく、夏樹様ご本人にお話ししたかったのですが」
「俺様を納得させることができたら夏樹に説明すればええ。誠意があるんじゃろう? 同じことを何度でも話せばええんじゃ」
「では、そうしましょう。改めまして、わたくしは百合園ありすと申します。かつて、異世界で勇者として召喚され、戦い、元の世界に戻ってきました」
「――ほう」
「それが二年前のことですわ。こちらの世界に戻ってきて、知らなかっただけで地球もファンタジーであることを知りました」
「……なんか聞いたことあるのう」
「とはいえ、わたくしは力を隠し、静かに生活することを望んだのです。戦いなど異世界で十分させられましたもの。しかし、新たな神々が、力を持つ者を集めていました。わたくしのこともどこからか知られ、執拗な勧誘を受けました。そんな時に、「帝国」の皆様に助けられたのです」
「そこだけ聞くと帝国もそう悪い組織じゃとは思わんのだがな」
「はい。「帝国」はあくまでも異世界帰還者をはじめ力を持った者たちをお互いに助け合う組織――でした」
ありすは悲しげな顔をして、過去形で語った。
「いつから変わってしまったのか、それとも知らぬだけで元からだったのか、わたくしにはわかりません。ですが、現在の「帝国」は、同じ境遇の者と助け合う組織ではなく、わたくしたちのような能力者の力によって支配しようと企んでいます。正直なことを言わせていただくと――クソ喰らえですわ!」