作品タイトル不明
52「今さら遅くね?」
水無月家の応接間に神々しい光と共に、赤と白を基調とした派手さはないが、上等な布で縫われた、巫女服のような衣装に身を包んだ女神が降臨した。
腕から背にかけて、薄手の羽衣を纏い、彼女がひとつ動くたびに、しゃらん、と鈴の音が鳴る。
「皆様、はじめまして。わたくしは、天照大神です。ごきげんよう」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
先ほどまでスウェット姿だったはずの天照大神は、絶叫の後「ちょ、ま」とか言いながら部屋から逃げ出すと、急に女神みたいな格好になってまるで今までの出来事が無かったかのように取り繕って降臨した。
夏樹をはじめ、水無月家の方々までが、「お前がつっこめよ」「嫌だよ」と目配せしている。
「ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、わたくしは太陽神である故、少し神々しさが三割増かもしれませんが、お気になさらぬようお願いします」
うわぁ、と夏樹が顔を引き攣らせる。
どうやら天照大神と一登が知り合いだったようだが、さすがの太陽神も毛玉だらけのジャージを装備した姿を、少し気があった少年に見られたのはショックだったのだろう。水無月家の人まで、初対面のノリで無理やり話を進めようとしている。
いつもは軽快なツッコミをする銀子でさえ口を開けていて、小梅も「ないわー」という表情を隠さずに唖然としていた。
水無月家などもっと悲惨だ。当主の茅は、相手は仮にも太陽神であるため指摘しようにもなにも言えない。星雲は、天照大神が中学生に懸想している可能性に目を白黒させており、雲海に至っては目を白くして意識を半分ほど飛ばしていた。
この場にいなかった都と澪がさぞ羨ましいだろう。
「水無月家の皆様にもご挨拶を。父、伊邪那岐命より土地神としてこちらに参りました。以後、よしなに」
「は、はぁ」
「緊張せずとも良いのですよ。わたくしは、太陽神。皆様の傍に寄り添い、お力を貸すことが最上の喜びなのです。何か困ったことがありましたら、そうですね、親戚のお姉さんに頼るような感覚で声をかけていただければと思います」
「あ、ありがとう、ございます」
「うふふ。お礼なんて。わたくしは天照大神。人々のために働くことこそ、喜びなのです」
(これツッコミ待ちなのかな? あと、これだけ取り繕えるなら最初からしろよぉ! 神様に夢持たせてくれよぉ! あと、地味に、一登ってすごいよね! こんな状況でもニッコニコだよ!)
水無月家の人が、引き攣った笑顔を浮かべて耐えているのに、夏樹が我慢できずに突っ込んでしまっていいのか、と悩む。
だが、突っ込みたい。
突っ込みたくてしょうがない。
そんな時だ、
「だぁあああああああああああああああ!」
小梅が限界に達した。
「この駄目女神! 今さら取り繕っても遅いんじゃっ、このボケェええええええええええ!」
この場にいる者の気持ちを代弁してくれた小梅に、夏樹たちはとてもすっきりした顔をした。